近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

Border -境界線-

ただ他人よりも多く金を稼ぐことでしか働く意味を見出せず、あくせく走り続けてきた自らの人生に嫌気がさした時期があった。

 

見栄えのする高級スーツにネクタイ、聴こえのいい横文字の職業と肩書き。

 

このまま走り続けたところで一体何が残るというのだろうか…何かを残したい。後世の人間に、こんなブッとんだヤツがいたんだっていわれるような自分の足跡を残したい。強烈にそう思った。

 

そんなとき手元にあったのがたまたまカメラでさ。どうしようもなく写真という表現に魅了されてた。これでいくしかないと不意に覚悟を決めた。100年後も語り継がれる写真家になってやるって、根拠のない自信に確信めいた。

 

そう思った最中、世界的に活躍するオランダ人キュレーターで写真批評家のマーク・プルーストが来日すると聞いて東京に向かった。出会って早々、彼から出されたお題は「Border」。なんでもいいから境界線を撮ってこい。そう言われ、アキバハラを訪れた。かぎられた時間の中で無我夢中になって撮った。

 

数時間後、マークのもとに撮ったばかりの写真を見せに戻った。正直、自信がなかった。短時間だったために撮影技法まで配慮して撮ることができなかったし、何より現像もレタッチもしていない。ある程度の酷評は予想できていた。

 

そんな自分の予想に反してマークの第一声は、「おもしろい!」というものだった。こんな写真見たことないよ、これが写真のおもしろさなんだと俺に諭してくれた。「過去のセットアップされた写真にはお前のビジョンが映り込んでない。お前自身が映ってない。でも、このアキバの写真にはマーティン・パーにも通ずる批評眼が見てとれる。スナップショットに専念すれば、もっともっとおもしろいものが撮れるんじゃないか?」、そう言ってくれた。

 

その翌日、俺はそれまでの仕事を辞めた。

 

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