近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

NewsPicksは情報コンテンツの「ブロックチェーン」だ!

久々の記事更新。

f:id:funk45rpm:20220212173539j:plain

 

人間ってのは特定の問題に対峙したりとか満たされた生活を過ごしていると、不特定の他者に向けた言葉を失くしてしまうものらしい。なにかを渇望したりとか、希求しているときにこそ他者を見つめる眼差しが生成され、言葉として表出するものなんだと思う。

 

以前に…とはいっても、もう5年前になるのか。『日常の<入力>と<出力>』と題してアウトプットするには一定のインプットが必要で、それには一定の時間軸がいるよねって記事を書いたんだけど。前回書いた記事からちょうど1年という月日が経過し、その間に集積された新たな視点と経験がそれなりにストックされたので。

 

前口上はこのへんにして1週間に1本程度、またツラツラと書いていきます。

 

今日の目次

 

何を信じて、どこから情報を得るべきか

インターネット普及による情報アクセスのパラダイム・シフトで、僕たちはとんでもない情報量にさらされるようになった。それこそありとあらゆる玉石混交の情報の中から、何が現実で何が虚構かを見きわめられるだけの「情報リテラシー」を今、僕たちは自己責任のもとで要請されているのだ。

 

そうした情報社会で生存に必要な、または知的営為に必要な情報ソースをどこから得るのかが大きな問題になってくる。人間を取り巻く環境が高度に発達したがために、情報の授受に関わる「時差」が解消し、即時的な情報伝達が一般化した*1。もはや、旧態依然とした既存のマスメディアは力を失ってしまっているのだ。

f:id:funk45rpm:20220212170740j:image

 

僕自身もいわゆる情報産業に携わる身なので、日常的な情報収集は欠かせない。できるだけ速く、できるだけ確かで、できるだけ精度の高い情報を慢性的に必要としているのだが、マスメディアの制度化された流通では到達までに時間がかかるし、特定の個人が発する情報では主義主張や信条によって偏向した情報がもたらされてしまう。要はちょうどいい塩梅の、情報コンテナが長く見当たらなったのだ。

 

そうしたなかで僕が目をつけたのが、NewsPicks(ニューズピックス)というニュースサイトだった。このNewsPicksを課金ユーザーとして使っているうちに、NewsPicksの「プラットフォーム」としての秘められた大きな可能性に気づいてしまった。そこで、この記事ではNewsPicksという配信プラットフォームの特異性と、進化の可能性について考察してみた。

 

キュレーション・メディアとしてのNewsPicks

そもそも、なぜ数あるニュースメディアの中でNewsPicksだったのかというと。実はNewsPicksの海外の良記事を厳選だとか、独自コンテンツであるとかにはあまり興味がなかった。

 

それでもなお1,700円のサブスクに課金しているのは、1ヵ月あたり3,189円もするウォール・ストリート・ジャーナルの有料記事がすべて読めるからだ。公式のほぼ半額料金でWSJの質の高い有益な情報が享受できて、さらに国内のビジネストレンドも一望できる。まさに一挙両得だと思った。

f:id:funk45rpm:20220212170939p:image

 

そもそもNewsPicksは、どんなメディアなのだろうか。NewsPicks自身は下記のように定義している。*2

ソーシャル経済メディア

国内外の経済ニュースを厳選。専門家のコメントや世論のチェック、 コメントのシェアまで、これ一つでワンストップに完結できる、 ビジネスパーソンのためのソーシャル経済メディアです。

 

さらにネット検索を漂っていると、しばしば「NewsPicksはキュレーションメディアだ」という言説に行き当たる。では、この「キュレーション」というのはどういう行為を指すのだろうか。

 

「キュレーション」なる言葉を一般に普及させたのが、ジャーナリストの佐々木俊尚が2011年に出版した『キュレーションの時代』という書籍だ。この書籍から引用しながら、そもそものキュレーションという知的営為について振り返ってみよう。

 

前提として「私たちは情報そのものの真贋をみきわめることはほとんど不可能だけれども、その情報を流している人の信頼度はある程度はおしはかることができるようになってきている」としたうえで、

 

キュレーターというのは、日本では博物館や美術館の「学芸員」の意味で使われています。世界中にあるさまざまな芸術作品の情報を収集し、それらを借りてくるなどして集め、それらに一貫した何らかの意味を与えて、企画展としてなり立たせる仕事。

 

「『作品を選び、それらを何らかの方法で他者に見せる場を生み出す行為』を通じて、アートをめぐる新たな意味や解釈、『物語』を作り出す語り手であると言えるでしょう」(美術手帖より)

 

これは情報のノイズの海からあるコンテキストに沿って情報を拾い上げ、クチコミのようにしてソーシャルメディア上で流通させるような行いと、非常に通底している。(→P.210)

情報のノイズの海の中から、特定のコンテキストを付与することによって新たな情報を生み出すという存在。それがキュレーター。(P.241)

 

 

とキュレーターを定義し、「情報爆発が進み、膨大な情報が私たちのまわりをアンビエントに取り囲むようになってきている中で、情報そのものと同じぐらいに、そこから情報をフィルタリングするキュレーションの価値が高まってきている(→P.242)」としている。

 

NewsPicksの独自性を際立たせる「Pick」とは

とあるサイト*3ではNewsPicksのキュレーション機能による独自性を、以下のように紹介している。

NewsPicksは、ただニュースを見るだけのアプリではなく、ユーザー自身が自ら参加して発信する事ができます。 

 

気になるニュースがあれば「+Pick(ピック)」ボタンをタップすると、対象ニュースのコメント欄に自分の意見を投稿する事ができます。さらには、コメントにSNSのような「イイネ」をつけることも出来るので、鋭い意見は他のユーザーから注目されるようになっています。  

 

この「見るだけではなく参加も出来る」というポイントが、NewsPicksの最大の特徴です。

 

もっとも僕の場合は気になった記事を精読している時間がないので、とりあえず「あとで読む」的に記事を保存するためコメントを入れずにピックしている。おそらく、そういう使い方している人が大多数なのではないだろうか。

 

さらにNewsPicksは2015年にこのキュレーション機能を強化すべく、“プロピッカー”制度を導入。プロピッカーの選定基準は、編集部が設定した領域でエッジの効いたコメントをしたり、企画を作ったりできる人。プロピッカーは記事にコメントをしたり、独自の連載企画に協力したりするという。敷衍すると、プロピッカーとはNewsPicks公認のご意見番ということになる。

f:id:funk45rpm:20220212171059j:image

 

ここで、あるアイディアが僕の脳裏をよぎった。

この仕組みって「ブロックチェーン」じゃないか、と…。

 

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンとは、ビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)の基幹技術のことで、電子的な情報を記録する注目の技術だ。その仕組みをビットコインに限定して説明すると、取引記録をネットワーク参加者全員で公開されたデジタル台帳に記入し管理するというもの。

 

10分間に世界中で起きた取引データを「ブロック」という1つのまとまりに書き込む。AさんからBさんに送金、CさんからDさんに送金、EさんからFさんに…という取引が記録としてすべて残るのだ。

 

「社会の幸福の極大化を見込むには、社会を構成するメンバーの幸福の総量を計算し、その総量が最大になるような仕組みが必要」と考えた哲学者・ジェレミ・ベンサムが構想した全展望監視システムで、後にフーコー*4が権力一般を説明するモデルとして援用した「パノプティコン」という概念があるが、まさにブロックチェーンの発想はこれに通底する。

f:id:funk45rpm:20220212171244j:image

 

ビットコインが革新的だったのは、取引記録によって「信用のベースを容易に創造できる」点にある。かつて通貨の世界で信用のベースを生み出し、世の中に革命を起こしたのは15世紀後半から広まった複式簿記だ。複式簿記によって特定の人や組織が本当に利益の源泉をもっているかが判別できるようになり、その残高にもとづいて「信用」が生まれたのだ。ただしこの制度をうまく運用するために、国もしくは会計士による監査が必要だった。

 

それに対してビットコインは制度上の管理者は存在せず、自主的に集まったコンピュータが運営しているにも関わらず信頼でき、そして記録が改ざんできない。この技術の根底には「仕組みそのものでコミュニティの秩序を維持しよう」 という考え方があり、「ブロックチェーンはもう終わった」といった声もちらほら聞こえるが、一方では「まだ始まってすらいない」 という意見もある。

 

しかし、それはビットコインという文脈の中での話であって、この技術を応用することによっていたるところで新たな変革が起きる可能性がある。その最たるものが知的財産で、いま話題の「NFT(Non-Fungible Token)」はそれを解決するためにブロックチェーンが応用された技術だ。

f:id:funk45rpm:20220212171507j:image

 

あらゆるデジタル・データは容易に複製ができてしまうため、連携や共有をするうちにそのデータの出所・原本性・正確性・履歴などが曖昧になっていくという問題を孕んでいる。これを取引記録という観点から信用を担保しようというのがNFTの基本思想になっている。ベンヤミン*5も、真っ青!

 

NewsPicksとブロックチェーンの共通性

で、このブロックチェーンとNewsPicksが、どのように関連しているかということになってくる。ネット上で飛び交うニュースもまた、その真贋がみきわめづらい。フェイクニュースに飛びついた結果、「炎上」ということもままある。

 

しかしNewsPicksというプラットフォームだと、そもそもプロピッカーがピック(コメント)した記事がアルゴリズムによって目につきやすくなる。プロピッカーがピックすると多くの人が目にすることになり、不特定多数のさらなるピックを生み出す。すると、また別のプロピッカーがそれをピックし、波及効果が乗数的に加速する。

f:id:funk45rpm:20220212171556j:image

 

要は誰がピックしたのか、そしてどれくらいピックされているのかと同時に、情報の連鎖によってその情報の質と「信用」が担保されているわけだ。

 

NewsPicksの問題点

もちろん、NewsPicksにも問題はある。そもそもプロピッカーは運営サイドが恣意的に選定しているので中央集権的だし、その選定基準が倫理的に正しいかは疑わしい。課金ユーザーの解釈によっては、「プロピッカーではない、ただのピッカーである<私>はいったい何なのだ」という不平不満や妬み嫉みを生まない保証はどこにもない。

 

しかし、そうしたブロックチェーンにも通ずる情報の設計思想ゆえに、「信頼できない者同士が集まって共同作業を行い、それでも裏切り者に陥れられないためにはどうしたらいいか?」という「ビザンチン将軍問題」と呼ばれる、かつてのコンピュータ・サイエンス上の難題もNewsPicksは見事な解を出している。ある種の不正行為や迷惑行為に挑戦するよりも、情報の連鎖に協力してプラットフォーム上での「信用」を得るほうがどう考えても得だからだ。

f:id:funk45rpm:20220212171718j:image

 

まとめ

以上のことから個人的な見解として、NewsPicksには新たな情報アーキテクチャの萌芽がみてとれる。そうした社会学的、生態学的観点からプラットフォームとしての進化を促すのであれば、運営サイド(つまり、編集部のことだが)が自らの「コントロール」を手放し、より「民主的」な情報発信の仕組みを制度化していくことになるだろう。

 

NewsPicksの、さらなる進化を期待したい。

 

 

 

※後日、この記事を見た人にTwitterのRTと何が違うのかと質問を受けたので追記。そもそもの設計思想がまったく違う。Twitterは結びつける対象が「アカウント(=人)」であって情報ではない。対してNewsPicksはマッチングの対象が「情報コンテンツ」そのものであって、人はあくまで二次的要素に過ぎない。さらにTwitterが情報の連鎖によって担保してるものは「話題」であって、「信用」ではない。

*1:拙記事『象形文字化する現代の言語コミュニケーション』参照のこと

*2:https://newspicks.com/about/

*3:テルル「これを見れば社会の今が分かる「NewsPicks」のススメ」

*4:ミシェル・フーコー・・・(1926年10月15日 - 1984年6月25日)は、フランスの哲学者、思想史家、作家、政治活動家、文芸評論家。『監獄の誕生』を書いた

*5:ヴァルター・ベンヤミン・・・(1892年7月15日 - 1940年9月26日)は、ドイツの文芸批評家、哲学者、思想家、翻訳家、社会批評家。『複製技術時代の芸術』を書いた