アート
現実とも幻想とも判断のつかない虚構の世界。大疫病時代の静寂と呻吟、増殖/積層する都市文脈、歪形するイメージ…。日本を代表する造本家・町口覚が写真集を出版・流通させることに挑戦するために立ち上げた「bookshop M」の写真集レーベル「M」から、2021…
「文学は現実を模倣する。だったらその逆だって…」 攻殻機動隊のTVシリーズ、『Stand Alone Complex』の劇中で語られる言葉だ。J.D.サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を伏線にして次々に起こる事件、その真相に迫ろうとするトグサが吐いた言葉。そう、…
圧巻だった。あっさりと自分のなかの「日本一」が塗り替えられた。すべてが好みどおりの仕上がりと緻密な組み合わせの妙、そして奇をてらうことのない確かな味わいがそこにはあった。空間演出、サービス、品質どれをとってもパーフェクトで、文句のつけよう…
今でこそ漫画を読まなくなったが、学生時代は漫画に没頭していた。そのせいか、わりと自分の中の価値観の軸になっているものが、漫画から吸収した知識だったりもするのだ。おそらく1980年代近辺で幼少期にバブルを過ごした同年代くらいの方は、そういう人も…
某所にもとめられて書いた、約500文字の書評。 俺が単一の書籍について語ることは少なく、公開するのもまた乙なものだと思った。この詩集は俺の人生においてもマスターピースといえる重要なものなので、ひとりでも手にとってみてくださる方がいることを願う…
チャン・イーモウ監督最新作『SHADOW/影武者』を公開初日に観てきた。チャン・イーモウというと色彩の魔術師として、VFXを駆使した絢爛豪華な独自の世界観と武侠アクションというのがお約束なのだけれど、今作は「自分が本当に撮りたい物語と巡り合った」と…
このブログの中にあって、ひそかな人気企画となっている『焼き鳥』巡礼。ついに関西を飛び出し、横浜一の焼き鳥の名店と謳われる「里葉亭(りばてい)」に行ってきた。実は味わってみたい本命のお店が他にあったのだが、まずは当地でも随一といわれる由縁を…
森山大道という日本を代表する写真家をご存知だろうか。ストリートフォトの大家であるウィリアム・クラインに触発され、極端に粒子の荒い「アレ・ブレ・ボケ」を強調した作風と独特の詩情によって、日本ならではの『私写真』という方向性を決定づけた現代写…
世の中は紛いもので溢れている。真実ではない、真実の皮を被った贋作たち。残念ながら、あんたが信じているものの大半は紛いものだ。食品、ブランド、芸術、身に付けた教養、感動で涙を流した本の著者、趣味で教わった習い事、無垢な信仰心を求める宗教、拝…
意外にも、以前に焼き鳥の俺的名店について書いた記事が好評だった。 あきらかにこのブログに訪れる客層とは異なる趣向ながら、驚くべき精読率を誇る記事となった。やはり「食」というのは、人類普遍の関心事なんだろうな。そんなわけで性懲りもなく、「焼き…
これはひょっとすると、映画史に名を残す映像作品になるのではないか。そう予感せずにはいられない、すごい映画を観た。映画の題名は『セメントの記憶』。建設ラッシュに沸く中東レバノン・ベイルートを舞台に、地上32階建てのビルの建設現場に働くシリア移…
人がこうしてなにかを書き、撮り、描くのは、いつか、どこかで誰かに届くことを前提にしているからだ。そして、その前提はインターネットの発展によって新たな空間が開かれた今、誰もが「知」にアクセスできる環境があってはじめて成立する。しかし、それ以…
写真の見方、鑑賞の勘どころをこれまで書いてきた。なんとなく写真に興味はあるけどよくわからない、とくに写真に興味はないがなんとなくアートについて学んでみたいという御仁を対象に、最初の一歩の踏み出し方について記しておこう。 写真というメディアは…
実はこの記事で、ちょうど壱百記事目になる。これを読んでるあんたも縁起がいいね。文字数にして単行本で参冊分、約三年間の集大成だ。一見してなんの脈絡もないことを書き連ねているように思えるが、それなりに筋のとおった話材を提供しているつもりだ。一…
伝説の格闘家ヒクソン・グレイシーの息子、クロン・グレイシーが2月18日(月・現地時間)にUFCで鮮烈なデビューを飾った。試合時間たった2分06秒での一本勝ち。グレイシー柔術の基本に忠実なテイクダウンからバックテイク、そして伝家の宝刀チョークスリーパ…
ある程度の本を読み込んでいる、ちょっと“通”な読書人にとって次に何を読むべきかというのは常に付き纏う問題だ。それなりの知識と教養を持っているだけに、このテーマに対してはここらへんの本だなという方向感覚は身についているけど、問題は今の自分に必…
写真鑑賞論と題して写真の見方、楽しみ方を論じたり、有名写真家によるInstagramアカウントを紹介した記事を書いたので、それなりに写真好きな御仁も拙ブログに流入してこられているようだ。ただ哀しい哉、おそらく未だ多くの方がアートや芸術というものを取…
映画『ノーザン・ソウル』を観た。何それ?、と思ったあんたが正解。『ファースト・マン』でも『THE GUILTY/ギルティ』でもなく、『ノーザン・ソウル』だ! 『ノーザン・ソウル』予告編 単館系のカルト作品で日本初公開でありながら、数少ない上映館もわずか…
悲しみよ、こんにちは。武器よ、さらば。いやな気分よ、さようなら。 平成最後の大晦日、新年までの数時間。フロイド・メイウェザーvs那須川天心までの僅かな、ぽっかりと空いた時間。大好きだったラジオ番組『菊地成孔の粋な夜電波』も今年かぎりで終わりを…
武術をやっていると何か別の力に突き動かされていると感じる時がある。それはあたかも経験したことのない技を、まるで知っていたかのように繰り出すことができたり、自然に理に適った動きが実践されていたり。俺の場合やればやるほどに、何か“見えない力”が…
先週からシンガポールを経由してタイ、プーケットへ。タイは今、深刻な不況に見舞われていて、“微笑みの国”といわれながら市井の人々の表情はけっして明るくはない。そんな中、欧米人に人気のリゾート地として独自の地歩を獲得したプーケット島は、外貨獲得…
録り溜めていたNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見た。いわゆる企業人や経済人のドキュメンタリーには興味がないのだが、この回はなんと左官職人の久住有生ではないか! www.nhk.or.jp もう10年以上も前にこの人が携わった建築を見たことがあって、深…
ライフサイクルというものがある。人生もいよいよピークを過ぎ、折り返し地点に差し掛かって思うのは、いろんなものが削がれていく・失うことへの諦観だ。それは決して悪いことなどではなく、むしろ人生の虚飾を剥いでより本質へと向かうかの如きなり。ライ…
他人には教えたくない店というのが、人それぞれにあると思う。何を隠そう、無類の“焼き鳥”マニアである俺にとってそれは当然のように「焼き鳥屋」だ。マニアと自称するくらいだから、名店と噂されるところは軒並み足を踏み入れてきた。とくに本拠にしている…
閑話休題、ひさびさの写真鑑賞論。前回は媒体論として展示の魅力について語った。 「メディアはメッセージである(The Midium is the message.)」と、情報を伝達するメディア自体が情報であることを喝破したのは英文学者マーシャル・マクルーハンだが、写真…
撮りためていたテレビ番組を見て、驚愕した。*1 7月に放送された『情熱大陸』の魚店店主・前田尚毅氏の回だったのだが、なんと…テレビカメラの前で「脱水」がおこなわれているではないか。 「脱水」とは鮮魚の水分量を調整することで食感を引き締め、旨味を…
これから、とりとめのない話をしようと思う。理由は単純で、社会学者・岸政彦の『断片的なものの社会学』という本に触発されたからだ。この本はある意味で衝撃的な内容であるわけだが、どういう本なのかを客観的に説明するのは難しい。本文にそのまま物語ら…
久しぶりに映画を観た。数年前までは単館系の映画を中心によく観ていたのだが、最近はめっきり映像作品から刺激を受けることが少なくなり、映画館から足が遠のいていた。そんな折、河瀨直美の新作が上映されているという話を聞きつけネットで調べてみたら妙…
先日来からの大雨により、西日本を中心に甚大な被害が発生している。被災されたすべての方がたに心よりお見舞い申し上げます。 書きたいトピックは山積みなれど、どうしても筆をとる気になれなかった。こんなときに決まって思い浮かぶのが、ザ・イエロー・モ…
『料理』は哲学的な営為だ。何故にその食材を選び、違う食材を組み合わせ、煮るなり焼くなりの調理を施すのか。そこに多元的に加えられたハーブやスパイス、ソースは作り手のどのような“戦略”を内包して、食べ手にとってどんなドラマツルギーを創出するもの…