近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

国際関係論で観るワールド・サッカー

来年のワールドカップの行方をうらなう前哨戦、コンフェデレーションズカップもいよいよ大詰めで4強が出揃った。個性際立つ監督たちの手腕と世界トップレベルのテクニシャンがしのぎを削る欧州リーグも好きなんだけど、なんといってもお国柄が顕著に出るナショナルチームが面白くってしかたないんだわ。

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そんな“お国柄が出やすい”ナショナルチームだからこそ、国際関係論の主要コンセプトでサッカーを分析することができるんじゃないかって思ってて。実はここ数年、サッカー戦術論との融合を試みてるんだ。まだまだ試論の域を出ないんだけど、その触りだけ公開してみたいと思う。この見方がわかればワールドカップ観戦の楽しみが倍増する、はず。

 

そもそも国際関係論って何なのか。欧米では「戦略学(Strategic Studies)」の系譜に位置付けられる学問で、その成立は比較的新しい。小市民の暮らしの中ではなんら実用性がなく、なじみのない分野なので説明をはさみながら進めていこう。国際関係論とは、多極的な国家の集まりである国際政治の場がどういう仕組みや力学で決定されているのか、戦争や連合体といった様々な事象がなぜ起こったのかを類型的に説明しようとしたものなんだわ。この前段がよくわからない人でも、たとえば「リベラリズム」や「地政学リスク」なんてゆう言葉は聞いたことがあるはず。

 

何故に「サッカー」と国際関係の「政治学」が結びつくのかってことなんだけど、国の代表としてトップチームが招集されている以上、必然的に国民性としてのお国柄が出るのは当たり前な話で。お国柄っていうのも国家の長期的な政策と国が位置する地理的な要因によって醸成されるもんだから、おのずと関係性があるはずだってのが俺の持論。とゆうわけで、数ある国際関係論の学派の中でも主に「地政学」の立場から話を進めてくことにする。

 

国際関係論における監督像 

まず国際関係論の大前提がある。それぞれ「国家」を「チーム」で読み換えてほしい。

1.全世界を支配する中心的な権威が存在しない
(国際システムはアナーキーの状態である) 

2.どの国家もある程度の攻撃力を持っている

3.国家は互いがそれぞれ何を考え何をしようとしているかを完全には把握できない

 

だからこそ大国小国に関わらず、どの国家も自らの利益の最大化のために覇権を握ろうとして勢力均衡(バランスオブパワー)しているのが国際社会システムであるというものだ。その上で国際関係論は2つの大きな枠組みを提示している。サッカーにおいてもこの2ついずれかのキャラクターによってチームが運営されてることに着目してほしい。

 

❶リアリズム

リアリズムとは性悪説に則り、目的合理的に政策を判断していく学説のこと。これをサッカーに適用して考えると、勝利至上主義で試合内容よりも結果にフォーカスしたカウンター志向のチーム。この場合、イニシアチブは監督がにぎっていることが多く、厳格な統制のもとで試合を行っている。サッカーにおけるリアリズムの源流は、「ゾーンプレス」を発明したアリゴ・サッキにある。

 

❷リベラリズム

リアリズムとは対照的に性善説に則り、規範やシステムによって国際社会は調和するという理想主義の学説。サッカーの場合、統制は最低限の約束事だけで選手たちが独自にイニシアチブを持って主体性に委ねているチーム。結果よりも内容を重視する傾向にある。サッカーにおけるリベラリズムの源流は、「トータルフットボール」を標榜したヨハン・クライフだ。

 

 現代サッカーの戦術は結局、クライフとサッキという2人の天才のいずれかに帰結するから不思議なもんだよね。例外的に❸コンストラクティビズムという枠組みも存在するんだが、便宜上ここでは省く。国際関係論では脅威的な存在を無力化する最も効果的な方法としてコンテインメント、つまり「包囲」と「封じ込め」を挙げている。

 

地政学による戦術論 

では、ここから地政学に入ってくことになる。世界中の国家はその地理的要因により「ランドパワー」と「シーパワー」に二分されるという。

 

「サッカーは数学とアートの融合である」とはFIFAインストラクターの小野剛氏の言葉だが、この感覚は俺ら一般人にもなんとなく理解できる。数学とはつまり組織的な約束ごとや戦術のこと、アートとは個人技やパーソナリティにおける領域のこと。これって、チームの戦術優位か個人技主体かといったチームの特色にそのまま当てはまるのではないかと考えた。

 

ランドパワーは伝統的に陸軍力が強い大陸国家のこと。サッカーにおいては「個人技」主体のチームをあてはめる。翻って、シーパワーは海軍力の強い海洋国家のこと。こちらは「戦術」優先のチームが該当すると考える。それぞれの特徴を詳細に見てみよう。

 

■ランドパワー

代表例:ブラジル、フランス

特徴:大陸的気質(アート性優位)により攻撃性が中央に出やすい。それぞれのポジションに対する自信と矜持が強いのでフォーメーション重視で、4-3-3や4-4-2などシンプルで均一に配置された安定的な布陣をとりやすい。

要衝:地政学では「ハートランドを制するものが世界を支配する」といわれ、ハートランドとは中心地帯を指すんだが、サッカーでもハートランドが存在する。ランドパワーにおいては前線へボールを供給する「中盤」がこれに相当する。ハートランドである中盤を底でコントロールするバランサーとしてのボランチこそがランドパワーの要だ。サッカーにおいてはリベラリズムと相性がいい。

課題:小康状態となった場合に緩急のある展開力とバリエーションが求められるが、基本的にボランチや司令塔のイマジネーション次第で克服しやすい

 

■シーパワー

代表例:チリ、スペイン

特徴:艦隊気質(戦術優位)が強く、統制のとれた機動性を武器にサイドを使った波状攻撃が特徴。協調性に富みポジションは流動的。4-2-3-1や3-5-2といった、ポジショナルプレーが可能な変則的なシステムを採用することが多い。

要衝:シーパワーにおいては「シーレーン」と呼ばれる海上交通路が重要で、そのシーレーンの中に「チョークポイント」という要が存在する。いかに決定機に持ち込むかのパスコースが重要になり、チョークポイントはいわゆる「ディフェンスラインの裏」ということになる。臨機応変に最も長い距離を走らなければならないサイドバック、ウィングバックが生命線となる。リアリズムと相性がいい。

課題:サイドを封じられた消耗戦の場合は敵の牙城である中央を切り崩す突破力と決定力という個人の力量が必要になるので、FWなりMFに傑出したタレントが1人は欲しい

 

以上、ランドパワーとシーパワーの特徴を見てきたが、国家がどちらに分類されるかはその国が置かれている地理的状況によって決定され、国民の気質や志向性もその要素にひもづけられることになる。ちなみに一般的な理解として「ランドパワーの優位」が前提になる。

 

なぜなら、たとえシーパワーの海洋国が海戦で首尾よくランドパワーを破ったとしても敵本土の占領や戦後の統治には必然的に陸上戦力、つまりランドパワー(個人技)が必要になるからであり、サッカー史を俯瞰しても殿堂入りレジェンドたちにはことごとく特筆すべきパーソナリティがあったことを考えると頷ける。

 

覇権の攻防と戦術トレンド

ここで地政学のキーコンセプトになるが、地政学の開祖ハルフォード・マッキンダーはある事実に着目して閃いた。実は世界史というのはこのランドパワーとシーパワーの闘争による歴史なのではないのか。具体的に見てみると、

コロンブス前の時代:ランドパワー

チンギスハンなどアジア人のヨーロッパ侵入

コロンブスの時代:シーパワー

ヨーロッパ人の海外進出による大航海時代

コロンブス後の時代:ランドパワー

鉄道力を背景にしたドイツ・ロシアの台頭

現在:シーパワー

エアシーバトル構想で中国を牽制するアメリカ

 

なるほど、こうしてみると見事に覇権国の移り変わりがわかる。基本的に両者の折り合いは悪いのだ。ではサッカーはというと、1998年ワールドカップはフランスでランドパワー、2002年ワールドカップもブラジルのランドパワー、から一転して2006年ワールドカップはイタリアでシーパワー、2008年のユーロは優勝国ギリシャでシーパワー、2010年ワールドカップは優勝国がスペイン、2012年ユーロはまたもスペインでシーパワー、2014年ワールドカップはドイツの優勝でランドパワー。

 

とくにドイツはフィジカル優位のランドパワーにあっても、より原理主義的な特色をもっているのでシーパワー的な緻密な戦術を駆使している。というのは、思想上では❸コンストラクティビズムに該当する、データがイニシアチブを持った特殊なサッカーを展開しているからだ。この辺は今回のコンフェデ杯の結果を待って再度分析してみたいと思う。2016年ユーロもシーパワーのポルトガルが優勝しているが、そろそろランドパワーが復権しそうだということを地政学は示唆しているのだ。

 

以上が試論の枠組みなんだが、ここで重要なことがひとつ。これらの理論はあくまで「数学」の部分であって、おもに戦術や監督論を扱ったものであり、サッカーのアート性、つまりテクニック論や選手論は理論的に考慮してないってこと。これらのコンセプトだけで勝敗は語れないってことをお忘れなきよう。

 

サッカー論:

新サッカー論―サッカーとアートのカオスな関係

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地政学:

陸と海と―世界史的一考察

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国際関係論:

大国政治の悲劇 改訂版

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