近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

柔術的思考法 ~人生で大切なことはすべてグレイシーが教えてくれた〜

「グレイシー柔術を学ぶと性格が変わる」…

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俄に信じがたい風説が、海外ではまことしやかに囁かれている。俺自身も文献や資料などを渉猟してグレイシー柔術(※ブラジリアン柔術ではない)を研究するうち、その発想の見事さにすっかり魅了され、それまでの柔術観が180度変わった。グレイシー柔術の考え方は、その根本をきっちり理解することができれば、闘いの原則としてだけでなく、生き方そのものにも適用することができる。そのまま投資格言や成功哲学、人生訓としても活用できる。まさに現代版『孫子の兵法』ともいえる、人生の真理が凝縮されているのだ。

 

そこで日常生活にも使えるグレイシー流の思考のエッセンスを、俺なりの解釈で抽出してみた。ご注意いただきたいのは、ここで披瀝するグレイシーの極意はブラジリアン柔術の発想とは相容れない事柄も含まれるということだ。その相違点はお読みになってみれば一目瞭然だが、ブラジリアン柔術で教えられて「是」とされていることが、グレイシー柔術では「非」となることもある。だからこそ常々云っていることだが、世の中は一つの価値観から見た景色がすべてではないし、違うレンズで世界を見るということも必要なのだ。

 

だからといって、BJJの柔術家諸氏が悲観することはない。大事なことは発想の転換で、ご自身でできていないことは取り入れたらいいだけなのだ。実際にやってみて、今までのやり方との違いを実感してみる。何ごともとりあえずやってみないことには何も進展しないし、行動することに意味がある。未来に生かされない経験など何ひとつないのだ。柔術家の御仁も、それ以外の方も、奥深きグレイシー柔術の世界をご堪能あれ。

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▶まずはウォームアップ

其ノ壱 自分が見ている世界が正しいという認識を捨て、違う価値観を素直に受け入れよう

【解説】ブラジルという新世界でコンデ・コマなる怪しげな東洋人から武術を息子に習わせるという、ガスタオン・グレイシー*1 の英断がなければ、そもそものグレイシー一族が歩んだ軌跡は生まれなかった。凝り固まった思考に囚われることなく、常にオープンマインドで、新しいことに臆することなくチャレンジする。それがGracie Way。自分が知っている世界がすべてだなんて、思わないほうがいい。

 

其ノ弐 ストリートファイトでウォーミングアップが出来るかい?

【解説】グレイシー柔術は、芸術の域にまで高められた究極の護身術だ。ストリートで突如、暴漢に襲われたことを想定して極限にまで磨き抜かれた、生き残りのための技術なのだ。そうした状況ではゴングも鳴らなければ、リングもマットもない。だから、グレイシー柔術の道場では伝統的にウォームアップは行わない。人生も同様に出たとこ勝負だ。いつ如何なるときも、不測の事態に対処できるメンタルを手に入れろ!

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▶Control

其ノ参 エゴやプライドはドアに置いてこい!

【解説】グレイシー柔術の総本山、グレイシー・ユニバーシティとその支部道場には、必ず「LEAVE THE EGO AT THE DOOR」というキャッチフレーズがプリントされた玄関マットが置かれているという。意味は上記のとおりだが、自分主体の思い込みや思い上がりは目を曇らせる。グレイシー柔術の真骨頂ともいえる特徴が、相手や状況をよく観察するということなのだ。言葉にするのは簡単だが、いざ実践となるとなかなか素直には出来ない大切なこと。人生のすべてが学び。謙虚であれ。

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其ノ肆 状況とともに自分自身をコントロールせよ

【解説】よくスパーリングなどで、対抗心むき出しで挑んでくる御仁がいる。同門相手にも鼻息荒く鋭い目つきで対峙しているのを見かけるのだが、そういった敵愾心を向けると因果応報で敵意しか返ってこない。スパーリングはコミュニケーションであって、勝負ではない。スパーリング相手はパートナーだ。コミュニケーションの基本は相手に敬意を払うということ。人と正しく向き合うところから、すでに柔術は始まっている。真に柔術的であるというのは、無駄に力まないということ。いかなる時も自分の心をコントロールして平常心を保て。自分の身体をリラックスさせて呼吸を保て。

 

其ノ伍 リラックスが、大きなパワーを産み出す

【解説】グレイシー柔術の教則ビデオや動画を見てると、しきりに「リラックス、リラックス」というワードが出てくる。相手を無理やり力でコントロールしようとすると、必ず隙や盲点が生じる。打撃系格闘技でも最も効果を発揮するのは身構えた緊張状態ではなく、緩やかにリラックスした状態から放たれるパンチやキックだ。ガチガチに強張ると己の視野を狭め、自ら災厄を招くことになる。長い時間リラックスして最高の状態で動く、これがベストプラクティスなのだ。

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▶Positioning

其ノ陸 絶対にやられないポジションを知り、使いこなす

【解説】グレイシー柔術の「絶対にやられないポジション」こそが、クローズドガードといわれるガードポジションだ。まずはディフェンス。真っ先に自分の安全な生存圏を確保すること。そのポジションではどんな脅威があって、ポジションを利用してどんなことができるのか。常日頃から不断の研究をしておくことが重要。自分の安全を最優先にしてリスクは負わない。相手が何をやってこようとも確実にストップする。そうすると絶対的な安心感と余裕が生まれ、相手を見る力が生まれる。あとは冷静に相手の動きを待つだけ。

 

其ノ柒 ポジションを作ったら動きを待つ

【解説】グレイシー柔術の基本は先に動いたら負け、先に動かしたら勝ち。そのためには今の自分の状況を知って、相手の状況も知ることが大前提。ポジションによって有効な技は変わる。ポジションごとに危険な技を覚えて、それを防ぐテクニックを身につける。相手の技が完成しない最高のタイミングで、隙を突いて仕留める。これがグレイシー柔術のセオリーで、徹底した“後発制人”の思想に貫かれている。すべてを自分の思惑と想定のなかに置くのだ。

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▶Survive

其ノ捌 「上達」とは何かを得ることではなく、手放すこと

【解説】いくつもの技があっても使いこなせなければ意味がない。バリエーションを持っていても、本当に闘う時には決まったことしか出来ないのが人間というもの。グレイシー柔術の秘訣はシンプルさにある。相手が何をやってこようとも、少ない技で直線的に最適解を見出す。持っている技術は少ない方が迷いは生じない。迷わないということは意思決定が速いってことだ。素早い判断ができる頭脳に身体の動きを合わせる。そのためには余分なもの、無駄なものは徹底的に持たない、捨てるということ。力が抜けないのは固執している証拠。持ち手であるグリップすら執着しないのがグレイシー柔術。

 

其ノ玖 大切なのは技術ではなく、技術の使い方

【解説】実はグレイシーの技術にはそれほど秘密はない。だが技術の使い方、考え方にこそ極意が隠されている。現に柔術の技や動きは様々な格闘技に取り入れられている。だけど、テクニックを変化に合わせていかに使えるか。グレイシー一族の強さの秘密はまさにここにある。身体で覚えるというのは、身体で感じる力を身に付けるということ。感じとる力が増せば変化が読める。変化が読めると自分の置かれている状況が理解できる。そうすると自分がやるべきこと、最高のタイミングがわかる。五感を研ぎ澄まし、身体全体をセンサーにして変化を読み取れ。

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其ノ拾 疲れない闘い方

【解説】グレイシー柔術の真髄は、これに尽きると思う。理解しているつもりでも、実際にはなかなか出来ることじゃない。柔術による闘いに必要なのはスピードとパワーではない。自分の心と身体をコントロールして、相手と向き合うことが大切だ。疲れたら自分をコントロールする力が大きく減る。技術を司る判断も鈍るし、ときに思考停止にも陥る。ストリートで思考停止してしまったら、その時点で最悪の場合、「死」をも覚悟しなくちゃならない。最高の状態は余計な力を使わない、リラックスした状態。絶対に疲れないような動き、身体の使い方。これこそが現代社会を生き抜くための、最高の処世術でもある。

 

最後に

自分の得意ジャンル、興味のあることにしか目を向けようとしない御仁は多い。技術だけを覚えて満足してしまうケースも多分にある。でも、大切なことはそこから何を読み取るか、人生という旅路を歩むうえでどう発展させるかを考えないと意味がない。たんに情報を消費してるだけじゃ、そこらの情弱連中となんら変わらない。

生きていく以上は、人は学び続けるしかないんだよ。

Only The Strong Survive!

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*1:原生ブラジリアン柔術の始祖カーロス・グレイシーの父。詳しくは『グレイシー柔術考 ~セルフディフェンスの美学~』を参照のこと