近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

半径5キロメートルの聖地巡礼

武術をやっていると何か別の力に突き動かされていると感じる時がある。それはあたかも経験したことのない技を、まるで知っていたかのように繰り出すことができたり、自然に理に適った動きが実践されていたり。俺の場合やればやるほどに、何か“見えない力”が感じられるようになった。

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村上春樹『海辺のカフカ』で、主人公の田村カフカ少年は「すべてのものが歪んでいた。なにもかもがひどく歪んでいたせいで、まっすぐなものが逆に歪んでいるように見えるほどだった」日常が嫌になる。そして「四国でなくてはならない理由はない。でも地図帳を眺めていると、四国はなぜか僕が向かうべき土地であるように思える」と告げ、家出して四国へと向かうのだ。まるで、“見えない力”に導かれるように。

海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)

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きっかけは以前に書いたことがある、井穴刺絡を施術してもらっている鍼灸院の院長だった。いつも理知的な説明で健康面をアドバイスしてくれる有難い存在なのだが、スピリチュアルや精神世界にも精通しているらしく、たまに突飛なことを言い出し、反応に困ってしまうときもある。中にはバリバリの唯物論者だった俺にも目からウロコな、知的好奇心くすぐる話も少なくない。

 

そんな院長にどこか近場でオススメのパワースポットはないか、と聞いてみたのである。そこでいくつかの名所や仏閣が挙げられたのだが、俺の興味を引いたのは自宅からもほど近い山中にある神社だった。えっ、そんなところにパワースポットが?と耳を疑ったのだが、聞けばその場所にちなんだ古文書が過去に見つかっており、全国的にも知る人ぞ知る聖地なのだとか。その場所を「保久良神社(ほくらじんじゃ)」と云う。

 

保久良神社は古代人が神の降臨場所として崇めた場所に建立された神社で、祭祀の痕跡として磐座(いわくら)が現存している。古文書はカタカムナ神社という実在不明の神社の御神体であったことから「カタカムナ文献」と云われるが、学術的にはその存在を認められていない。ウィキペディアによると文献は80首のウタヒ(歌)によって構成された、自然の摂理や世界の真理が記された叡智の書だという。そして保久良神社こそが、実はカタカムナ神社ではないかとされているらしい。


カタカムナ文明とは?

 

件の文献はそもそも測量調査していた学者に苦情を言いにきた謎の住民が、対応へのお礼としてカタカムナ神社で宮司をしていたという父親所蔵の巻物の書写を許したことで発見に至ったというなんとも眉唾な話ではあるが、こと磐座に関しては奈良・大神神社(おおみわじんじゃ)の御神体、三輪山に実在する磐座ともほぼ起源が同一とされる由緒ある霊場なのだ。古代人の自然信仰の念が今も宿る、霊験あらたかな聖地であることに変わりはなく、なぜだか呼ばれているような感覚があった。

 

自宅からほど近いとはいえ、六甲山系の登山道でもある山の上に建てられた神社なので、途中から急峻な山道に分け入ることになり、場所によっては道なき道を突き進む。人工物は遮断され、やがては方向感覚を失い、感覚という感覚が研ぎ澄まされてくる。当初こそ辛うじて残る紅葉の残滓を愉しむ余裕もあったが、次第に異界へと足を踏み込みつつあるのが肌身で感じるようになる。

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急な山道で心拍も上昇し、呼吸が乱れはじめたかと思うと、突如、眼前の眺望が拡がりを見せる。大阪湾を一望する、中世には灯台としても機能していた“灘の一つ火”の常夜灯の下に誘われるのだ。その絶景を前にして、保久良神社の鳥居は峻厳と聳え立っていた。早くも奥の方から得体の知れないけれどもどこか懐かしいような、メランコリックな妖しさが醸されている。参道も拝殿も、けっして荘厳な造りではない。しかし、なんとも張り詰めた空気感が流れていた。

 

拝殿まで行くと、社務室の前に鎮座する立岩(たていわ)の圧倒的な存在感にまず気圧される。立岩とともに磐座を構成する神生岩(かみなりいわ)の異様な迫力もまた凄まじいものがある。古の巨石文化を示すそれらしい岩がそこかしこに転がっており、あたかも紙一重の結界の中ですべてが調和しているようにさえ知覚される。太古のアニミズムの象徴であったことが頷ける、強力な磁場が神社一帯に張り巡らされているのだ。それこそ霊的感受性の強い方は、一瞬にして当てられてしまうのではなかろうか。まるで山全体が意思を持っているかのように発せられている、強烈な何かのメッセージ。
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※こちらの写真はすべてiPhoneによって撮影しています。写真の所有権は執筆者に帰属します。許可なく無断で転載・使用することを禁じます。

 

まさか、ここまで強力なパワースポットが身近に存在していたとは…。まだまだ世の中には知らないことが多い。下山する際、山道で一匹のイノシシと出会った。しばらくのあいだ目が合い、敵意がないことを感じとると、なにかを語りかけるように一瞬こちらを振り返り、山林へと消えていった。今思うと、あのイノシシは山の主だったのだろう。

 

日常の中に存在する非日常の存在。あちら側の世界からのメッセージを聴き取るには、精神鍛錬だけでなく霊力も高めていかねばならんのだろうなあ。

聖地巡礼 ビギニング

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