近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

ブラジリアン柔術が上達する(かもしれない)読書

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他所様のブログなんかを拝見してると、揃いも揃って「今年読んだベスト○○冊」みたいな記事が多くって、今どきの世間の人にそれだけ読書需要があるとも思えないんだけど、なんか乗っかりたい自分がいたりもする。俺自身がわりと読書家といえる人種なのだが、このブログを読んでる方々の属性から判断するかぎりでは普通にそんなの書いても歓ばれそうもないしな。

 

兎にも角にもこの1年も本業そっちのけで柔術に没頭しすぎた感もあり、何をするにもどっかで柔術と繋がってたような気がする。読書についても例外ではなく、上達する近道を求めて本を選んでいたという側面があった。そこでとくに今年前半に読んだ、柔術が上達しそうな本をここに掲載してみることにした。そういう意味では既に記事化もしている「孫子の兵法」がまず第一に挙げられるが、ここでは触れない。

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ご贔屓の皆様はすでにお気づきだろうが、このブログはあくまで知性的な側面から柔術にアプローチしているので、おそらく脳みそまで筋肉で仕上がったフィジカル偏重の御仁や、テクニックマニアを満足させられるコンテンツは用意できない。現に紹介する書籍はどれも柔術や格闘技を扱っていないからだ。しかし、考えてみてほしい。ライバルを出し抜くくらいの上達を目指すために、ライバルと同じようなことをしていて本当に上達するだろうか。みんなが筋力やテクニックを磨いているのなら、違う方向に振れるだけの思い切りが必要なのではないか。

 

そのような観点からあえて、柔術や格闘技とは直接的に関係ないけれども上達を手助けしてくれそうな本を選んだ。そして実際に俺にとっては少なからず血肉になった本ばかりだ。これらをそのままお読みになられるも良し、この選定基準を参考にしてご自身で別の書籍をお探しになられるなら尚良し。読書なんかで柔術が強くなるか、なんてお思いなら御生憎様。試しに一冊、読んでみなされ。真に柔術の上達を目指されるなら、柔術以外の叡智に目を向けられるが最良。それではお楽しみあれ。良いお年を! 

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 ①習得への情熱 ジョッシュ・ウェイツキン

あえて柔術に直結しない、と声高に宣言しながらも関係ある1冊を出してしまった…。天才チェス少年の実話を映画化した、『ボビー・フィッシャーを探して』の主人公であるジョッシュ・ウェイツキンによる著書。早熟の天才だった著者は早くして自らの限界を知り、チェス界を離れた。その後は、なんと柔術に転向して黒帯に。さらに武道探求に目覚め、今は太極拳推手のトップランナーだというから驚きだ。二転三転してもトップの座にいるのは、チェス時代に培った独自の学習法に秘密があった。その秘訣を細分化して章立てしているのだが、俺がとくに参考にしたのはゲーム序盤ではなく、終盤から研究して技術を磨いたという点。たしかに多くの人は、オープンガードの攻防にばかり目を向けている。その他いかにして自分のスタイルをつくっていくべきかなど、柔術家にとっても垂涎の目からウロコな情報が多く盛り込まれている。

習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法

習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法

 

 

②現代将棋の思想 糸谷哲郎

将棋と柔術には明確な共通点がある。まず一つは序盤、中盤、終盤という戦局があり、大局観が必要とされる点。そしてもう一つは、戦型というパターンを構築することで相手を徐々に詰んでいくという点。違う点は打ち手が限定的か否かということと、相対的な時間の流れが異なるというところ。しかし後者はシミュレーションゲームにおけるRPGとRTSとの違いくらいの問題でしかない。となれば、歴史ある将棋のアプローチを研究しない手はないと思うのだが、意外に実践してる人は少ない。この本は現代将棋の戦法はどのようにして解析がなされているのか、ということがよく理解できる一冊。現代将棋では、おおよそ序盤の10手ほどで既にどの戦型に移行するかほぼ決まってしまうというから驚愕だ。

現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~ (マイナビ将棋BOOKS)

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③変わりゆく現代将棋 羽生善治

将棋における天才と云えば、まず思い浮かべるのが羽生名人ではないだろうか。そんな誰もが知る天才ならではの脳内の思考が垣間見れるとしたら、如何だろうか。『変わりゆく現代将棋』は1997年から3年半にわたって雑誌に毎号掲載されたとつてもない連載である。「第一章 矢倉」と題して続けられた羽生の思考が、毎号10ページ以上を費やしながら展開され、それが延々3年半にわたって続き、2000年に唐突に終了した。「第二章」は書かれることがなかった幻の未完の大作だ。羽生はあらゆる場合に発生する変化をそれぞれ深く探求し、とくに激しい変化についてはほとんど詰みに近いところまで研究して、その研究成果を全部書いてしまおうとした。そして、そのプロセスをすべて披瀝することで、これまでの将棋の常識を疑う姿勢を示すとともに、序盤に隠されていた将棋の可能性の大きさを表現しようと試みた革命的な1冊なのである。

変わりゆく現代将棋 上

変わりゆく現代将棋 上

 

 

④戦国の城 攻めと守り 小和田哲男

 詭弁のそしりを免れないが、柔術におけるガードの攻防は戦国時代の攻城戦に通ずるものがあると思っている。ならば当時の定石となる戦法はほぼそのまま使えるのではないかと思いつき、いろいろ探してようやく見つけたコンパクトな良書。思ったとおり、攻めと守り双方の代表的な戦法が網羅されている。こう考えてみてはどうだろうか。たとえばよく知られる「兵糧攻め」。これに倣ってガードが固ければ、わざと間合いを置くことで相手の動きを誘い、その挙動に合わせて再度アタックを仕掛けてみてはどうか。翻ってガード側では、わざと隙きをつくり本丸である上体に誘い込んだと同時に、無力化したと思わせた脚を使って、支城と連携した「挟撃」戦術ばりに各個撃破できないものか。といった具合に柔軟な思考を誘発するヒントが満載だと思うのは拙者だけだろうか。

知れば知るほど面白い 戦国の城 攻めと守り (じっぴコンパクト新書)

知れば知るほど面白い 戦国の城 攻めと守り (じっぴコンパクト新書)

 

 

 ⑤マジノ線物語 栗栖弘臣

 防勢的な国防戦略の粋として20世紀最大の国境要塞でありながら、ドイツ軍の侵攻を許してしまった大国フランスをとおして、どのような思想のもとにそれは誕生し、どのような運用が企図されていて、どのような意思決定がなされたかを、元防衛官僚が一次資料を丹念に読み込むことで解き明かした文献。前々から興味があったのだが、脅威を寸前にした国防とはどういうことか、本質的な「防衛」とは何なのか、どういった要因が防御を阻害するのかを突き詰めるために読んだ本。よく「素人は戦争を戦略で語りたがり、プロは兵站で語る」と云われるのだが、まさにそのとおり戦略思想の食い違いが為政者にあったことが理解できる。直接的に柔術に関わることではないが、リベラルアーツの一環として教養になり得る貴重な学術書。

マジノ線物語―フランス興亡100年

マジノ線物語―フランス興亡100年

 

 

⑥能に学ぶ「和」の呼吸法 安田登

 こちらはやや実利的な内容になるだろうか。武術の本質は呼吸のコントロールであり、時間の操作なのだということを「禅と武術の果て ~呼吸を巡る身体的考察~ - Jitz. LIFESTYLE」という記事で書いたのだが、そのとおりに試合のなかで呼吸できていない自分に気づいて読んだ本。もともと能楽は神事の舞を起源にした芸能なので、身体から湧出するリズムで謡われるものだ。ひとつひとつの人間業ではない「所作」や「運び」によって舞う人を(まるで神が降りたかのように)変容させ、場をも変容させる力を持っていた。神が降りたように舞うからには呼吸自体も変容し、まさに超人的な身体運用を可能にしていたはずだ。この本ではおもにメンタルヘルスという側面から効用が語られているが、日常生活にも活かせる実践手法が分かりやすく書かれている。

 

⑦川中島合戦 海上知明

史上もっとも有名な合戦の戦略分析のために、と云いたいところだが、この本の最大の効用は実は違うところにある。上杉謙信と武田信玄という2人の稀代の武将の違いは「キャラクター」にあるのだ。そんなことは百も承知だろうが、ではどう違うのかというと結果重視のリアリストであった武田信玄に対して、過程を大事にするアーティストだった上杉謙信。この両者のキャラクターの違いは現代にも生きている。つまり勝利の美学だ。どうやって勝つかは大事だが、如何に勝つかも大事ではないだろうか。試合に出るなら観る者を感動させたいと思うのは、競技者ならではの性だろう。では戦いのなかで何を優先し、どう行動すれば第三者の目には如何に映るのか。それを考えるうえで最良の道標となるのが本書だ。競技者であるかぎりは、美学を磨く必要がある。

川中島合戦:戦略で分析する古戦史

川中島合戦:戦略で分析する古戦史