近未来航法

予測不能な現代社会を生き抜く知的サバイバル術

写真集『20』/川田喜久治

現実とも幻想とも判断のつかない虚構の世界。大疫病時代の静寂と呻吟、増殖/積層する都市文脈、歪形するイメージ…。日本を代表する造本家・町口覚が写真集を出版・流通させることに挑戦するために立ち上げた「bookshop M」の写真集レーベル「M」から、2021年初に突如リリースされたのは、個人的にも敬愛してやまない写真家・川田喜久治による1冊だった。

 

齢87を数え大御所ともいえる立場にいながらにして、川田は現役写真家としてInstagramという最新テクノロジーを使いこなし、今なお写真を発表し続けている。彼のインスタ・アカウントについては、以前の記事でも紹介させてもらった。

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川田喜久治は東松照明、奈良原一高、細江英公らも在籍した伝説の写真家集団VIVOの創設メンバーであり、60年以上のキャリアを誇る写真家だ。敗戦という歴史の記憶を記号化し、メタファーに満ちた作品「地図」や、天体気象現象と地上の出来事を混成した黙示録的な「ラスト・コスモロジー」、都市に現れる現象をテーマにした「Last Things」など、意欲的な作品を発表し続け、日本のみならず世界でも高い評価を受けている。

 

その作風は形而上的ともいえるほどに観念的で、観る者に解釈を委ねる難解な写真が多い。彼の作品の数々は、感情を排して撮られた無機質なイメージに、多重露光などを駆使し、色や質感を重ねて撮ることで不均衡な意味づけが為され、なんだか不思議な違和感を感じずにはいられない。一見すると脈絡がなく決して心地のいい読了感は与えられないのだが、そこにはどこか深遠で静謐な「祈り」にも似た、現代日本のアイデンティティを揺さぶる神話的なナラトロジーが紡がれているのだ。

 

そう、川田喜久治はまさに日本のアイデンティティを描写しているのだ!だからこそ川田の写真は僕のような、アイデンティティを喪失した者、しかけた者、欠落した者の心象風景に深く突き刺さる。写真の文学性を否定した故・中平卓馬のような鋭利さを持っていながら、あくまで詩情溢れるリリシズムに貫かれた独特な世界認識が、どぎついまでの色彩によって形作られている。

 

あくまで「M」シリーズの定型化されたフォーマットながら、こってり墨が乗り、鮮やかなコントラストに彩られた上質な印刷は、アバンギャルドな写真表現を追求し続ける御大・川田のイメージが跳躍し、唯一無二なものになっている。意外なことに今回のブックデザインを手掛けたのは町口覚ではなく、実弟である町口景である。その町口景を交えて編集過程を振り返った動画が、ありがたいことにYouTubeに投稿されている。

 

youtu.be

 

とはいえ、話題性に事欠かないこの写真集の性格を作家本人の言葉が一番よく表しており、巻末に掲載された次のようなコメントによって、大きくパラダイムが変わったこの混迷の時代の、「見えない物語」のラストは飾られている。

 

30のカットで編まれたものには、始まりの感覚もなければ終わりの嗅覚もない。リズムの強弱もなければ、色や形の韻も踏まず、イメージは混交しながら粘菌のように増殖してゆく。突然の異時同図、影のスクロール、さまざまな幻影が気ままに地を這い宙に浮いたままだ。そこに見えない都市の蜃気楼が揺れる。

 

20年から続くプレイグタイムのなか、イメージの進行はグロテスクな寓話に近づいたりする時もあるが、新しいストーリーを生むにはほど遠い。さまざまなノイズとともに、いつ失速するかも知 れない想像の淵をさまよっているのだ。

(中略)

これからも続けたい。まだ空が明るく、目のまえの影が消えないうちに......。

 

 

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この写真集は限定700部ながら、以下のサイトなどで購入することができる。

www.pgi.ac

人生で大切なことは、すべてマンガが教えてくれた

今でこそ漫画を読まなくなったが、学生時代は漫画に没頭していた。そのせいか、わりと自分の中の価値観の軸になっているものが、漫画から吸収した知識だったりもするのだ。おそらく1980年代近辺で幼少期にバブルを過ごした同年代くらいの方は、そういう人も少なくないんじゃなかろうか。

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どの年代でどんな漫画を読んだかという体験は、人によっても異なる。それこそ少年ジャンプや少年マガジンといった雑誌が力を持っていた全盛の時代、トレンディだった漫画は同じ時代を過ごしたことを証明する、世代を経て記憶に刻まれた同時代性の産物だ。漫画でエポックとなったキャラクターやキーワードを肴に、場末の居酒屋で四方山話に花を咲かせるなんてことも往々にしてあるのだ。

 

他方で少し世代がずれていたり、それほど話題にならなかった傍流の(いわゆるマニアックな)作品のなかでも、妙に自分の感覚と深く結びつき、郷愁を誘う類いのものが存在する。ときにそんな作品のなかに、人生を変えるだけのインパクトをもった強烈なワンフレーズや台詞、名シーンというものが隠されていたりするのだ。

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今回はそんなアラフォー世代の俺の人生にとって、強烈な読書体験をもたらしてくれた作品たちを紹介する。ここに挙げた作品を読むことで、同年代の方たちは懐かしい思い出に浸ることができるし、俺らよりも下の世代はこれからの日本を背負おうことになる働きざかり世代の価値観や行動原理が理解できるだろう。

 

これらを読んで、俺と同様に人生の糧になれば幸いだ。

同年代の方はこれらを昔話の肴に、懐かしき日々をともに語ろうではないか。

 

センゴク外伝 桶狭間戦記

センゴク外伝 桶狭間戦記全5巻 セット (KCデラックス)

センゴク外伝 桶狭間戦記全5巻 セット (KCデラックス)

 

 

ちょうど駆け出しのサラリーマン時代、ビジネスという競争を支配する決定的な因子は何かと模索していた時期があった。そんなときに読んだのがこの漫画で、有名な桶狭間の戦いの前後を織田信長と今川義元、双方の視点で語られた新解釈の歴史活劇だ。愚鈍な公家かぶれと思われがちな今川義元だが、近年の研究ではきわめて戦略的で大局的な視座から領地経営を行っていたことが解ってきている。

 

戦国武将が下賤なものと蔑んでいた金の力を見抜き、“金”によって日本を支配しようとした織田信長と、法律による支配を最善とし、“法”の力に心酔した今川義元の運命的な邂逅と数奇な宿命を儚くドラマチックに描き出している。俺はここから自分ならではの武器を持つことの重要性、そしてビジョンや世界観の力の偉大さを学んだ。

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項羽と劉邦 

項羽と劉邦全12巻箱入 (潮漫画文庫)

項羽と劉邦全12巻箱入 (潮漫画文庫)

 

 

史記にも記された、秦王朝滅亡後の楚漢戦争を描いた古代中国の壮大な歴史群像劇。横山光輝といえば『三国志』を思い浮かべる人がほとんどだろうが、俺は断然、この『項羽と劉邦』が好きなのだ。様々なキャラクターも数多く登場するのだが、なんといっても好対照な2人の君主による覇権争いが魅力的。

 

個人的に好きなキャラクターは劉邦の将軍、韓信。貧民出身で「股くぐりの臆病者」とも揶揄され、項羽に士官するも重用されず、その天才的な才能を劉邦が認め、後に2万の軍勢で30万の趙軍を打ち破るなど大躍進をとげる。独創的な戦術で大胆な勝利を得る、軍師の鏡といえる傑物だ。

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ツルモク独身寮

ツルモク独身寮 文庫版 コミック 全7巻完結セット (小学館文庫)

ツルモク独身寮 文庫版 コミック 全7巻完結セット (小学館文庫)

 

 

ツルモク家具にインテリアデザイナーを志す新入社員として入社した宮川正太と、独身寮の住人たちとの人間模様を描いたラブコメ・ギャグ漫画だ。1991年に映画化もされているというのだが、その存在すら知らなかった…

 

リアルタイムではなく、ちょうど高校生のときに数年遅れで読んだ作品なのだが、将来を模索する思春期にこれと出会ったことで、社会とは、仕事とは、結婚とはなにかを考えさせられた。まだ現実を知らないがゆえの将来へのほのかな期待。焦燥感。憧れ。胸キュンのラストの展開にもすっかり感化され、甘酸っぱい青春の記憶として脳に刻まれている。濃いキャラクター描写も魅力的。

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ジパング

ジパング 文庫版 コミック 1-22巻セット (講談社漫画文庫)

ジパング 文庫版 コミック 1-22巻セット (講談社漫画文庫)

 

 

『沈黙の艦隊』で有名な、かわぐちかいじによる仮想戦記SF。海外派遣に向かう海上自衛隊の最新鋭イージス艦みらいはミッドウェー沖合で嵐に巻き込まれ落雷を受ける。その直後、ミッドウェー海戦直前の1942年にタイムスリップし、歴史の流れに巻き込まれていく。こちらも2004年にTVアニメ化されている。

 

これもキャラクターが大変に魅力的な傑作なのだが、この物語のキーを握るのは、みらい副長の角松洋介が自ら救助した帝国海軍通信参謀、草加拓海だ。現代の艦艇に助けられたことで日本の未来を知ってしまった草加は、運命に抗い、日本の生き残る道を画策し歴史の闇へと消えていく。自らの運命を悟り、それでもなお歴史を知ろうとする草加のこの一言に、生きる意味を探していた俺は救われた。

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TOKYOブローカー

TOKYOブローカー(1) (ヤンマガKCスペシャル)

TOKYOブローカー(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 

 

魔性の車を巡る人間たちを描いた青春群像劇『湾岸ミッドナイト』が有名な、楠みちはるによる全13話の未完の傑作。2004年の東京を舞台に、2人のブローカーの奇妙な関係とアウトローなビジネスの世界を描いた作品。主人公こそ大学生の若者だが登場人物の多くがけっして若くはない不良中年たちで、個性的すぎるキャラクターがいぶし銀の魅力と大人の色香を放っている。

 

車が好きなわけでもないのだが『湾岸ミッドナイト』も大好きだった。なんともノスタルジックな芳香をプンプンとさせながら、マニアックな愉悦にひたる大人の男たち。そんな男たちに寄り添う大人の女。なんとも妖艶で不思議な物語で、もっと続きが読みたかった。大人になるとはこういうことなんだな…そう考えさせられた思い出の1冊。

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“余白”の詩学 〜ゲーリー・スナイダー『終わりなき山河』〜

某所にもとめられて書いた、約500文字の書評。 俺が単一の書籍について語ることは少なく、公開するのもまた乙なものだと思った。この詩集は俺の人生においてもマスターピースといえる重要なものなので、ひとりでも手にとってみてくださる方がいることを願う。以下、原文ママ。

 

終わりなき山河

終わりなき山河

 

 

人生を歩むなかで、それぞれの節目に必要に迫られて取り組んできたライフワークや様々な問題意識が、実は1本の線で繋がっていると感じることがよくあります。私の場合、古代中国の自然観や老荘思想、陰陽五行を生活実践の場で活用しているので、生起する物事ひとつひとつに必然性があって、起こるべくして起きているような感覚をよく体感します。

 

そうした自分のなかの心象風景が、『終わりなき山河』の詩の世界観と重なるのは当然のこととして、スナイダーのヴィジョンにもあきらかに生きとし生けるもの、地球がつくりだしたすべてのものは有機的に結びついていて、地球というフィールド自体が悠久の時間の流れから生まれた、一つの叙事詩であるという観念を強く感じさせられます。

 

自然の厳しさ、雄大さを前にした人間の営みのちっぽけさ。飽くなき欲望に突き動かされ付加し続けることで発展する人間社会に対して、引くことで見えてくる豊かな精神と自然の姿。簡素な言葉で大きな世界を視覚化する、見事な詩のダイナミズムに気付かされた1冊です。

 

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ビジネスで大切な、たった3つのこと ~成功者のレシピ~

既にある1を10にする“投資”行動とは対照的に、0という何もないところから1を創り出す“ビジネス”には、様々な才能が必要なように思われる。しかし、1人で価値を生み出すビジネスと、100人を使って世に価値を問うビジネスでは求められる資質はまるで違う。それぞれ立脚しているステージにもよるが、ある程度までのビジネスならば特別な才能に頼らずとも、どんな人にも再現可能な鋳型があるのだ。

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もし起業を志すなら、もしくは閉塞した現状を打開するために、身に付けておいたほうがいい技術というものがある。それらの技術はお決まりのマニュアルを読んで、練習すれば身に付くというものではない。日常での実践をとおして、自らつかみ取っていかなければならないものだ。本当に意味のあることは一朝一夕に成し得るものではないし、答えが用意されたものではなく答えを見出していくべきものだ。だが、意識するかしないかで大きく結果を左右するものでもある。

 

俺が考えるビジネスに必要な技術、資質を開花させてもらうために、若き起業家にきまってオススメしている書籍が3冊ある。所謂、ビジネス書は人生をとおしてそんなに読み込んだ経験がないのだが、ここで紹介するものは例外的に、自分自身の経験のなかでスキルアップの必要性を実感したとき直感的に選び取って、実際に読んだものだ。どれも平易で理解しやすいものばかりで、千円札2枚に満たない金額で得られる知見や効果は計り知れない。この感覚こそがまさに“自己投資”なのだ。

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ここに挙げる3冊は、いわば成功者への道を示したレシピだ。成功を志す御仁や人生に行き詰まっている人たちには、嘘だと思って読んでみてほしい。そして、行動してほしい。行動なくして、人生は拓けないのだから。

 

ビジネスは“気配り”

ビジネスが商売である以上、人を介さないと生み出した価値は換金されない。そもそも人の心を動かさなければ、自分のサービスや商品は認知されないし、誰も自分のビジネスをサポートしてくれない。だからこそ、ビジネスの核心は、“人”を中心に組み立てないとダメだ。では、どうすれば人が動いてくれるのか。それは引き寄せの法則なんかでもよく云われる、「与える」ことでしか人は行動してくれないのだ。

 

与えるためには、接している人が暗黙のうちに求めていること、困っていることを敏感に感じ取る能力が必要になる。相手の期待値を上回る想像力が必要になる。凝った演出やあざとい行動は、浅はかな思惑を見透かされるものだ。凝りすぎず、やり過ぎない自然な“気配り”が「おもてなし」という精神に凝縮されたものが、日本の伝統である茶道には宿っている。そんな茶道の精神を接客にどう活かすかを、裏千家茶道の師範である著者が徹底的に解りやすく指南した良書が『接客は利休に学べ』だ。サービス業でなくとも学ぶべきところが満載だ。

接客は利休に学べ

接客は利休に学べ

 

 

ビジネスは“答力”

上段の“気配り”に直接的に通ずる能力が、この“答力”だ。前述した「相手の期待値を上回る想像力」こそが、まさに答力なのだ。答力とは読んで字の如く、答える力ということだ。これは著者の五十棲剛史氏が名付けたネーミングなのだが、著者はコンサルティング会社で年間粗利1億円以上を稼ぎ、11年連続No.1コンサルタントとして活躍し続けた人だ。そんな五十棲氏がビジネスマンに必要な能力として、類書にないユニークな考え方やノウハウを示したものが本書だ。

 

聞かれたことを機械的に答えるだけであれば、お客様の期待値を上回ることはできない。そこでお客様の潜在的に抱える“願望”や“悩み”にフォーカスして、答えを組み立てようというのが大きな趣旨だ。お客様の期待を先回りして期待値を超える回答ができれば、商談であるにも関わらず言葉だけでお客様を感動させることもできる。俺自身も「超」が付く大富豪たちを相手に商売できているのは、相手の意図を正確に理解して、そこに直結、もしくは先回りした会話ができているからなのだ。すべてのビジネスマンにオススメできる1冊だ。

稼ぐ人の「答力」 頭ひとつ抜けるオンリーワン養成講座

稼ぐ人の「答力」 頭ひとつ抜けるオンリーワン養成講座

 

 

ビジネスは“キャラクター”

ビジネスが競争である以上、人と同じことをしていては他者を上回る成果を出すことはできない。認知のされ方と、それに合ったアプローチの仕方が重要だ。“キャラクター”によって認知のされ方が変わるのだとすると、マーケティングはキャラクターを取り巻く“世界観”を創り出すための装置なのだ。今でこそコンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングなんていう手法がトレンドになっているが、いつの時代も情報発信と価値の提供がビジネスの中心で、何をどう伝えるかという本質が変わらぬ普遍の原則といえる。

 

1960~70年代に、アメリカでカルト的な人気を誇ったロックバンド「グレイトフル・デッド」。このバンドはとにかく破天荒ながら、時代を先取りしたマーケティングを展開していたのだ。なぜ現代の視点から革新的なことがビジネスとして出来ていたかというと、デッドにとってのファンは単なる消費者ではなく、自分たちと対等なパートナーと位置づけていたことにほかならない。マーケティングをしないマーケティングの、目から鱗が落ちるエッセンスがいくつも散りばめられたアイディアの宝箱みたいな珠玉の良書。いつ読んでもインスピレーションが刺激されること、請け合い。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

  • 作者: デイヴィッド・ミーアマン・スコット,ブライアン・ハリガン,糸井重里,渡辺由佳里
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2011/12/08
  • メディア: 単行本
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“帝王学”を学べ!

冷酷な云い方だが、他人と同じことをしていては人並み以上の人生なんて手に入らない。慰めのように金のかからない趣味に没頭したり、自己欺瞞的な消費を繰り返して現実から逃げてるだけの人生。少なくない妥協と隣り合わせのクソみたいな生活から抜け出すには、突き抜けた行動が必要だ。多くの人は、この事実にちゃんと向き合っていない。必要なのは現実を直視すること、そして行動だ。足りない脳みそは補強しろ。エゴを捨てて現実と向き合え!

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多くの人が自己啓発の一環として読んでいるビジネススキルや処世術に関する読み物は、そのほとんどがより良く現代社会を生きることを目的に、あんたが企業や組織の「使用人」であることを前提にして書かれている。これからの時代にはこういう能力が必要だ、シンギュラリティ後に訪れる世界で求められる働き方はこうだ…等など、耳ざわりのいい美辞麗句がならべられるが、その実、いかに企業のなかで使用人として生き残っていくかを説いているにすぎない。

 

かりに起業や独立をうながす実用書であっても、流行り物のビジネスモデルに乗っかってしまうか、会社組織でつちかった経験や環境をどのようにして売り物にするかを扱っただけの、それまでの人生の延長線上としての発想しか持ち合わせてないものが多い。しかし自らの生き残りと人生を賭けて、他者とは違う独自のレールを敷くという作業は、云わば人生を“コントロール”するということに他ならない。どっぷりと使用人の発想に浸かったやり方では、他人はおろか自分の人生すらもコントロールすることはできない。“コントロール”とは、支配者の論理なのだ。

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使用人という呪縛から脱却し、自分の人生を手に入れるには、支配者、統治者の発想が必要だ。自分という存在をどのように社会のなかで位置づければよいのか。自分が世の中に提供できる価値とは何か。自らの運命をどう切り拓くべきか。それは企業の庇護のもとで生きる使用人には不要な知識であり、理解の及ばない叡智なので一般的に語られることも少ない。支配者のための体系的知識を必要とするのは、社会的にもほんのひと握りの層なので、大量消費を前提とするマスマーケティングでは需要がないのだ。だから、支配者のために語られる知恵が市場に出回ることはほぼない。

 

しかしながら、古代中国には王家や伝統ある家系・家柄など、特別な地位の跡継ぎに対する教育手法として確立された、“帝王学”とよばれる全人的教育が存在した。その存在は歴史書として名高い『十八史略』にも記されている。人を使い、人を統べるにはどのような技法が必要か、君主として国を経営するにはどのような心構えでいるべきかなどのマネジメント論に加え、自らの運命と国の行末を知るための秘術として「算命学」に代表される占術が学ばれていたのだ。占い好きの経営者は多いというが、それも素直に納得できる。

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 ※こちら(↑)は帝王…ではなく「聖帝」。帝王学を学んだからといって、このような御仁が出来上がるわけではない。

 

帝王教育の要諦は、あくまで幼少時から家督を継承するまでの段階で施されるものだ。つまり、統治者になってから勉強するのでは遅すぎるということ。だからこそ自らの人生をコントロールし、今よりも良い境遇を求め成功を望む者は、早い段階で「使用人」の論理から脱却し帝王学を学ばねばならない。使用人の思考のまま、人生の支配者にはなれぬのだ。

 

自らの人生を自らの手で切り拓き、自分の人生を謳歌するためにも帝王学を学ぼう。なにかに妥協しながら生きるよりも、人生を自分のものにするためのバイブルとなる名著を紹介する。理解できずとも、読んだか読んでないかで圧倒的な差になるだろう。

 

易経

『老子道徳経』・『荘子』と合わせて「三玄の書」と呼ばれ、儒教の基本思想となる五経の筆頭に挙げられる経典。“易”者というと占い師のことだとお解りになるあんたは博識だが、易占いの原典である本書には哲学・思想のバイブルとしての側面と、占術のテキストとしての側面があり、それらが入り混じっているために大変に難解な内容になっている。しかし学問や読書をしていれば、なぜか誰もがいつかは辿り着いてしまうという奇書として、不思議な魅力に溢れた古典中の古典。世界や人間の成り立ちに迫る、帝王学の中心を担った一冊。さらに占術としての役割を突き詰めたものが算命学で、後に四柱推命などと交わって運命学の体系が形成されることになる。

易経〈上〉 (岩波文庫)

易経〈上〉 (岩波文庫)

 
易経〈下〉 (岩波文庫 青 201-2)

易経〈下〉 (岩波文庫 青 201-2)

 

 

韓非子

荀子の流れを汲む諸子百家のひとつ、法家の代表的人物による国家運営の教典。敵国であった秦の始皇帝が高く評価し、後に三国志で有名な諸葛亮が幼帝劉禅の教材として韓非子を献上したという逸話も残っている。「法」は君主による統治のための道具とした上で、法を至上とした法治国家の建設を説いた。性悪説に基づいた信賞必罰の徹底と、法と術(人心掌握術)による国家運営(法術思想)という徹底したリアリストの視点から、統治者のハウツーを示したものになっている。「引き寄せの法則」などに代表される無償の愛も大事だが、同時に支配者として冷酷な論理も持ち合わせておく必要があるのだ。

韓非子 (中国の思想)

韓非子 (中国の思想)

 

 

孫子

当ブログでも「ブラジリアン柔術に効く『孫子の兵法』」という記事をシリーズ化して、その思想がどう実際の生活や勝負ごとに役立つのか解説しているが、孫子は軍事的側面からいかに敵国を支配するか、自らの軍をどのように統率するべきかというノウハウが簡潔にまとめられた、“生き残り”のための実践書だ。その下敷きには易経や韓非子にも通底する老荘思想が埋め込まれており、リーダー、指導者がどのような世界観のなかで状況をコントロールしなければならないのか、人類普遍の叡智がつまっている。古今東西のビジネスリーダーは必ずといっていいほど読んでいる、勝負哲学のバイブル。

新訂 孫子 (岩波文庫)

新訂 孫子 (岩波文庫)

 

 

マキャベリの君主論

ギリシア・ローマ時代からの歴史上の実例を数多く挙げながら、その成功・失敗理由を挙げて実証的に「君主」としてのあるべき姿を説いた、イタリア政治学の聖典。フィレンツェ共和国の衰退に重ねるニコロ・マキャヴェッリ自身の焦燥、そして強靭な思想が絶対的な君主像を浮かび上がらせ、不可分だった政治と倫理の問題を見事に切り離すことに成功した。「権謀術数」の原典ともされるが、チェーザレ・ボルジアに触発され、軍事力に裏付けられた強力な君主による独裁的政治を提言している。後にルソーが社会契約論において、君主論は「共和主義者の教科書」と称賛している。

君主論 (岩波文庫)

君主論 (岩波文庫)

 

 

マッキンダーの地政学

地政学は国際政治学を形成する一学派で、本書はそんな国際関係における動態力学的な把握を示し、世界に衝撃をあたえたイギリスの地理学者による地政学の金字塔。不確定変数が無数に存在する国際政治の論理を分類し、モデル化しようとする地政学の試みは、社会科学の非主流に過ぎなかったが、この論文によってアカデミズムとも結びつき、為政者にとって必須の知識になった。「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制する」の一文は有名だが、思考の抽象度を上げ、視野を高めるのに役立つ。大国の合理的な振る舞い、歴史のダイナミズムが理解できる名著。

マッキンダーの地政学ーデモクラシーの理想と現実

マッキンダーの地政学ーデモクラシーの理想と現実

  • 作者: ハルフォード・ジョンマッキンダー,Halford John Mackinder,曽村保信
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2008/09/27
  • メディア: 単行本
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アートな感性を養う写真集の選び方

写真の見方、鑑賞の勘どころをこれまで書いてきた。なんとなく写真に興味はあるけどよくわからない、とくに写真に興味はないがなんとなくアートについて学んでみたいという御仁を対象に、最初の一歩の踏み出し方について記しておこう。

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写真というメディアは、カメラという特定のプロトコルによって変換された画一的なフォーマットだ。誰が撮ろうが、決まった形式で「写真」という名のアウトプットが出てくるものだ。同じものを撮ったとしても、構図の作り方、ロケーションやタイミングの判断、シャッタースピードや露出の加減などに個性が出る。だからこそ、写真家固有の眼差しが剥き出しになり、他者のものと比較しやすいという特徴がある。見る写真が同一撮影者による複数枚になれば、そこに写し出される写真家の問題意識やテーマが浮き彫りとなり、写真の配置によって写真にどのような文脈や観念、思想を乗せて撮っているのかが理解できる。

 

この記事の主張はシンプルだ。写真というメディアについて学ぼうと思うなら、是非とも写真集を手にとっていただきたい写真集という媒体を手にすることで、写真という平面に閉じ込められた複製芸術の魅力が立体的に立ち上ってくる。それがとりもなおさず、写真家が仕掛ける巧妙な戦略であり、世界観なのだ。現代アートとしての写真を理解するために。あんた自身の世界観を手に入れるために。さっそく、どのようにして写真集を選ぶべきかを考えていこう。

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まずはクラシックな一冊を

拙著の写真鑑賞論*1 で様々な写真家を写真集とともに紹介してきた。そのなかに気になるものがあれば幸いなのだが、まずは思考の鋳型として現代写真史を決定づけた歴史的な作品を手にとっていただきたい。聖典や古典といわれる作品から間口を広げていくというのは、どんな分野においても当て嵌まることで、これを省略して一足飛びしてしまうと後からつぶしが利かなくなる。最初の一歩は誰からも評価される、不朽の名作をじっくりと味わっていただきたい。写真集のオールタイムベストとして3冊を紹介する。

 

●ロバート・フランク:The Americans

The Americans

The Americans

 

●ウィリアム・エグルストン:WilliamEggleston's Guide

William Eggleston's Guide

William Eggleston's Guide

 

●ヴォルフガング・ティルマンス:Concorde

Wolfgang Tillmans: Concorde

Wolfgang Tillmans: Concorde

 

 

なぜ、この3冊なのか。実はこの3冊、それぞれ成長期<戦後>、変革期<70年代>、成熟期<現代>を代表する写真家によって撮られたものなのだ。戦後を代表する写真家ロバート・フランクは、ビート・ジェネレーションといわれる世代の系譜に立っていた。作品自体が多分に反骨的で、ドキュメンタリー写真の金字塔として今なお根強い人気を誇るものだ。エグルストンはアート市場にはじめてカラー写真を持ち込み、それまでの流れを一変させた。観念的で、独自の視点によって切り取られた身近な世界に、時代の普遍性や秩序を見出していた。ティルマンスは現代を代表するアーティストで、パーソナルとパブリックの領域を越境し、ジャンルレスにすべてを取り込み、コンセプチュアルな表現様式で現代社会を批評し続けている。

 

この3冊どれでもいい。まずはいずれかの写真集と向き合っていただき、じっくりと写真家と対話してみてほしい。写真家は被写体の向こう側に何を見ていたのか、何を表現したかったのか、何故にこの写真でなければならなかったのか。舐めるように頁を捲り、写真家と同じ時代、同じ場所、同じ視点を想像して身を置いてみる。解るようで解らない。そんな感覚でも、なにかしらの共感を覚えることができれば、あんたは既に深淵なるアートの世界に一歩踏み込んだことになる。

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評論家の批評を読む

次にやってほしいことは、写真評論家の批評文を読むということだ。上記の名作といわれる写真集を、評論家はどのように捉え、感じて、そしてどのように言葉で表現しているのか。そして何故にその写真集が評価されているのかを知る。そうすることで写真集を鑑賞し、御身で獲得した何がしかの感触と他者の相違点が浮き上がってくる。自分が感じたことと、他者の捉え方の違いを知ることで、新たな視点や解釈が生まれる場合もある。この工程を経ることで、自分の世界観を言葉で表現する*2という素養も身に付くだろう。

 

幸い、この小さな島国の写真評論家は数がしれている。誰もが必ずどこかで、この3冊について言及している文献が見つかるはずだ。ここでは俺が実際に読んだものを、参考文献として挙げておこう。

写真集が時代をつくる!-飯沢耕太郎が選んだ25冊の写真集- (PHaT PHOTO BOOKS)

写真集が時代をつくる!-飯沢耕太郎が選んだ25冊の写真集- (PHaT PHOTO BOOKS)

  • 作者: 飯沢耕太郎,PHaT PHOTO編集部
  • 出版社/メーカー: シー・エム・エス
  • 発売日: 2014
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 
白と黒で―写真と…

白と黒で―写真と…

 
写真という名の幸福な仕事 (Life works (1))

写真という名の幸福な仕事 (Life works (1))

 

 

心惹かれるワケを探る

ここまでくれば、じっくり自分自身と対話をしよう。最初に手に取った写真集のなかで、どの写真が自分の心の琴線に触れたか。何故、その写真に惹かれたか。その写真の奥にあるテーマや写真家の問いかけは何だったのか。ここを明確にすると、写真家が扱うテーマ性や観念、問題意識に合わせて、自分の好みの写真を探し出す大きな手がかりになるはずだ。ここで浮かび上がったキーワードをもとに検索することもできるし、写真展などの作家によるステートメントの読み取り方も変わる。できるだけ深掘りして、その写真に心惹かれる理由を抽出してみるがよろし。

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とにかく写真を眺める

もう、あとはとにかく写真を見ること。実際に写真集を扱っているお店を探して、足を運んでみるのも良し。インターネットで写真集専門店の品揃えの中から、気になる表紙やコメントなどを手がかりにしてページサンプルを見るのもまた良し。個人的にオススメしているのは、できるだけ現在進行形で写真を撮っている作家の近作からアプローチするということだ。写真家が扱っているテーマや問題意識といったものは、同時代だからこそ共感できる要素が少なくない。お気に入りの写真家がどのようにして今後の作品を展開していくのかも、リアルタイムに追うことができる。

 

俺の場合はインターネット専業の書店、flotsam booksを参考にさせていただいている。この書店はとにかく網羅的に写真集を扱っていることに加え、店主の小林さんの確かな選定眼と知識、そして言語能力は信頼に足る。なにより写真に対しての愛がハンパないのだ。コメントを読んでるだけでも楽しいが、写真集の中身の図版も充実しているし、写真集そのものの質感も伝わってくるので、モノとして愛着が持てるかどうかもある程度判断できる。気になるキーワードで検索して出てきた写真集を、感性の赴くまま図版を眺めてみてくれ。

 

その先に待っているもの

好みの写真集が身近にあると、どんな世界が待っているのか。写真は図像なので、瞬時に視覚からその世界に没入することができる。疲れた夜であっても、ただぼんやりと眺めるだけで写真の世界が立ち現れてくるのだ。読書にはある程度の気力と根気が必要になるが、写真を眺めるのにそんな労力はいらない。ものによっては見るのに凄まじいパワーを要するものもあって、そういった感覚も是非味わっていただきたいのだが、やはり、いつ見ても飽きないものを手元に置いておくべき一冊になろう。

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そして写真を読み取ることができる最大のメリットは、視点の転換をもたらしてくれるということだ。人間というのはとかく保守的な生き物で、自分の見ている世界、感じている世界を固定化しがちだ。だが、世の中というのは決して一面的なものではない。固定したが為の落とし穴が幾つも存在する。だからこそ世界を眺める眼差しを柔軟にするという、実利的な観点からも写真を鑑賞できる力は意義があるし、常々云っている自分だけの世界観を構築するにも役に立つのだ。

 

是非、実践せられたし。

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*1:写真術 カテゴリーの記事一覧を参照のこと。写真鑑賞論は①~⑥までシリーズ化されており、その他にも補填として各論を展開している

*2:明日を生き抜くために、『世界観』という名の武器を授けよう』を参照のこと

読書好きによる読書家のための、そそる必読書リスト

ある程度の本を読み込んでいる、ちょっと“通”な読書人にとって次に何を読むべきかというのは常に付き纏う問題だ。それなりの知識と教養を持っているだけに、このテーマに対してはここらへんの本だなという方向感覚は身についているけど、問題は今の自分に必要な知識、自分が求めている物語は何なのか、ということになってくる。

 

そんなときに重宝するのが書評家や知識人たちによるブックリストで、選者によっていい具合に偏りがあり、独自の目線で選ばれた知る人ぞ知る名著、なんかを見つけることができたら、もう読書家としては天にも昇る心地だ。では選者として誰を軸にするべきか、というのが専らの悩みのタネだったりする。

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そこで今回はちょっとした本好きにとって、さらに読書の幅を広げてくれそうな、書物への愛に溢れた読書ガイドやエッセイ集、解説書を選んでみた。なるべく複眼的に、意外に知られていないであろう書籍から真性読書家が敬遠しそうな近刊まで選定したので、ぜひ参考にしてみていほしい。

 

■知的野蛮人の旅行記に見る、次世代の姿と新たな教養

高城剛 『多動日記』

“ハイパーメディアクリエイター”なる肩書で熱烈な信者を持つ、今ひとつ素性の知れない御仁だが、実はかなりの教養レベルを備えた知識人である。スピリチュアル系のぶっ飛んだ知識なんかもお持ちなので、胡散臭さを感じられる方もいらっしゃるだろうが、この人独自の世界や社会の見方、未来への示唆とヒントに溢れたエッセイ集だ。常に移動して旅し続け、ノマドを地で行く特異なキャラクターが旅の合間に綴った、躍動する思考の軌跡が存分に堪能できる慧眼の一冊。新時代の知の姿が理解できる。

  

■写真評論家のフェティシズムを凝縮したブックガイド

飯沢耕太郎 『危ない写真集246』

国内でも随一の写真評論家であり写真コレクターでもある飯沢耕太郎が、自身の秘蔵、愛蔵本を開陳したかなりマニアックな1冊。その表題のとおり、死体やフリークス(畸形者)、幼女などエログロで倒錯的な偏愛嗜好を前面に出し、なかなか市場に出回ることのない貴重なレア写真集をこれでもかと掲載。社会の暗部に蠢くダークな美から、世界を見るレンズがけっして一つではないことを思い知らされる。飯沢自身のこれらの写真集への思いも綴られており、人間の業の深さを思い知らされる。

危ない写真集246 (夜想・Baby)

危ない写真集246 (夜想・Baby)

 

 

■時代を挑発したのは、詩人の革命的な“言葉”だった!

ヤリタミサコ 『ビートとアートとエトセトラ』

昨今、戦後日本の大きなターニングポイントとなった「1969年」という年号が俄に注目されているが、世界的に見ると所謂ビート・ジェネレーション(ビート世代)と呼ばれた異端者たちの出現が端初として考えられる。その中心的存在、アレン・ギンズバーグは抑圧的な社会体制に溢れ出る言葉によって反旗を翻し、カウンターカルチャーに革命を起こした。同時期に活躍した前衛的なモダニズム詩人の北園克衛、そしてカミングスを交え、彼等の詩から同時代性とその功績、新たな視点を自身も詩人である著者が抽出した、詩の言葉の解体新書。

ビートとアートとエトセトラ―ギンズバーグ、北園克衛、カミングズの詩を感覚する

ビートとアートとエトセトラ―ギンズバーグ、北園克衛、カミングズの詩を感覚する

 

 

■ベストセラー作家の創作の秘密に迫る文学談義

村上龍、村上春樹『ウォーク・ドント・ラン』

村上春樹と村上龍という2人の偉大すぎる「村上」による対談本なのだが、あまり一般的に知られていないであろう名著。1980年代の、まだ大ブレイク前夜の2人が若々しさを漂わせながら、それぞれの作品、それぞれの趣向や作家論、執筆スタイルについて、赤裸々に語っている貴重な内容。何故にこの2人が小説家として大成したのかが読み解ける。物書きを志す人なら必見の内容といえるだろう。珠玉のコンテンツであるにも関わらず、絶版のため中古市場でやや高値で取引されているのが玉に傷。

ウォーク・ドント・ラン―村上龍vs村上春樹

ウォーク・ドント・ラン―村上龍vs村上春樹

 

 

■売れっ子・編集者の思考回路が惜しみなく明かされた自叙伝

芝田暁 『共犯者-編集者のたくらみ-』

この男、豪放につき注意。出版業界にベストセラー・メーカーとして君臨する男がいる。名は芝田暁。過去に携わった書籍は、梁石日『血と骨』、浅田次郎『プリズンホテル』、田口ランディ『コンセント』、松井計『ホームレス作家』、新堂冬樹『無間地獄』など、その冊数は実に215冊。そんな彼の人生もまた波乱万丈だった。キャリアの絶頂にいた幻冬舎を辞めて自身の出版社を立ち上げたが、あえなく倒産。そんな稀代の編集者が自身の成功と挫折の真因を語った圧倒的熱量の1冊。本好きなら、痺れること間違いなし。

共犯者 -編集者のたくらみ-

共犯者 -編集者のたくらみ-

 

 

■成功したいなら伝記を読め!実践的読書のすゝめ

成毛眞 『この自伝・評伝がすごい!』

ビジネス界隈でも当代随一の読書家として人気の成毛眞さん。昔勤めていたIT企業時代の上司が成毛さんのかつての部下だったというご縁から、主宰されている「大人げない大人」の飲み会にご一緒させていただいたりもしたが、なんともIQの高いクリエイティブな経営者だ。手っ取り早く功利を得たいなら伝記を読め、と俺は若手に常々言っているのだが、成毛さんの視点で血肉になった自伝・評伝のブックリストを出版されている。イーロン・マスクから岡崎慎司まで有名無名かかわらず、時代を動かす偉人の人生を追体験する20冊が掲載。

この自伝・評伝がすごい!

この自伝・評伝がすごい!

 

 

■人生に迷いが生まれたら、人類普遍の古典に学べ!

柄谷行人,他 『必読書150』

世の中でもっとも品数の多い商品は書籍だと言われているが、100年、200年と読み継がれる名著というのは実はそう多くはない。いつの時代であろうとも人間の悩み苦しみというのはそうは変わらないし、願望や欲望もまた然りだ。柄谷行人、浅田彰、島田雅彦、奥泉光といった第一線の知識人が編集委員となり、人生の指針となり得る不変の聖典150冊を選出。一部では掲載本がスタンダード過ぎるとの批判もあるが、それだけいつの世も人間が“読むべき傑作”というのは不変なものだろう。

必読書150

必読書150

  • 作者: 柄谷行人,岡崎乾二郎,島田雅彦,渡部直己,浅田彰,奥泉光,スガ秀実
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 単行本
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■番外編

佐々木中 『取りて読め。筆を執れ。』

書籍ではないのだが、最後に個人的に参考にさせてもらっているブックリストを共有しておく。法制史家ルジャンドルを導き手にラカン、フーコーを踏破し、ヒップホップやダンスなどのサブカルチャーをも縦横無尽に語る異端の哲学者、佐々木中によるブックガイド40選だ。『必読書150』のような古典的名著に加え、佐々木中独自の視点で選んだ現代小説も多く含まれており、一味違った選書になっている。

yotsuya-shobo.hatenablog.com

 

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ブラジリアン柔術が上達する(かもしれない)読書

他ではけっして語られないディープな柔術ネタを、会員限定で配信中!↓

www.sandinista.xyz

 

他所様のブログなんかを拝見してると、揃いも揃って「今年読んだベスト○○冊」みたいな記事が多くって、今どきの世間の人にそれだけ読書需要があるとも思えないんだけど、なんか乗っかりたい自分がいたりもする。俺自身がわりと読書家といえる人種なのだが、このブログを読んでる方々の属性から判断するかぎりでは普通にそんなの書いても歓ばれそうもないしな。

 

兎にも角にもこの1年も本業そっちのけで柔術に没頭しすぎた感もあり、何をするにもどっかで柔術と繋がってたような気がする。読書についても例外ではなく、上達する近道を求めて本を選んでいたという側面があった。そこでとくに今年前半に読んだ、柔術が上達しそうな本をここに掲載してみることにした。そういう意味では既に記事化もしている「孫子の兵法」がまず第一に挙げられるが、ここでは触れない。

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ご贔屓の皆様はすでにお気づきだろうが、このブログはあくまで知性的な側面から柔術にアプローチしているので、おそらく脳みそまで筋肉で仕上がったフィジカル偏重の御仁や、テクニックマニアを満足させられるコンテンツは用意できない。現に紹介する書籍はどれも柔術や格闘技を扱っていないからだ。しかし、考えてみてほしい。ライバルを出し抜くくらいの上達を目指すために、ライバルと同じようなことをしていて本当に上達するだろうか。みんなが筋力やテクニックを磨いているのなら、違う方向に振れるだけの思い切りが必要なのではないか。

 

そのような観点からあえて、柔術や格闘技とは直接的に関係ないけれども上達を手助けしてくれそうな本を選んだ。そして実際に俺にとっては少なからず血肉になった本ばかりだ。これらをそのままお読みになられるも良し、この選定基準を参考にしてご自身で別の書籍をお探しになられるなら尚良し。読書なんかで柔術が強くなるか、なんてお思いなら御生憎様。試しに一冊、読んでみなされ。真に柔術の上達を目指されるなら、柔術以外の叡智に目を向けられるが最良。それではお楽しみあれ。良いお年を! 

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 ①習得への情熱 ジョッシュ・ウェイツキン

あえて柔術に直結しない、と声高に宣言しながらも関係ある1冊を出してしまった…。天才チェス少年の実話を映画化した、『ボビー・フィッシャーを探して』の主人公であるジョッシュ・ウェイツキンによる著書。早熟の天才だった著者は早くして自らの限界を知り、チェス界を離れた。その後は、なんと柔術に転向して黒帯に。さらに武道探求に目覚め、今は太極拳推手のトップランナーだというから驚きだ。二転三転してもトップの座にいるのは、チェス時代に培った独自の学習法に秘密があった。その秘訣を細分化して章立てしているのだが、俺がとくに参考にしたのはゲーム序盤ではなく、終盤から研究して技術を磨いたという点。たしかに多くの人は、オープンガードの攻防にばかり目を向けている。その他いかにして自分のスタイルをつくっていくべきかなど、柔術家にとっても垂涎の目からウロコな情報が多く盛り込まれている。

習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法

習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法

 

 

②現代将棋の思想 糸谷哲郎

将棋と柔術には明確な共通点がある。まず一つは序盤、中盤、終盤という戦局があり、大局観が必要とされる点。そしてもう一つは、戦型というパターンを構築することで相手を徐々に詰んでいくという点。違う点は打ち手が限定的か否かということと、相対的な時間の流れが異なるというところ。しかし後者はシミュレーションゲームにおけるRPGとRTSとの違いくらいの問題でしかない。となれば、歴史ある将棋のアプローチを研究しない手はないと思うのだが、意外に実践してる人は少ない。この本は現代将棋の戦法はどのようにして解析がなされているのか、ということがよく理解できる一冊。現代将棋では、おおよそ序盤の10手ほどで既にどの戦型に移行するかほぼ決まってしまうというから驚愕だ。

現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~ (マイナビ将棋BOOKS)

現代将棋の思想 ~一手損角換わり編~ (マイナビ将棋BOOKS)

 

 

③変わりゆく現代将棋 羽生善治

将棋における天才と云えば、まず思い浮かべるのが羽生名人ではないだろうか。そんな誰もが知る天才ならではの脳内の思考が垣間見れるとしたら、如何だろうか。『変わりゆく現代将棋』は1997年から3年半にわたって雑誌に毎号掲載されたとつてもない連載である。「第一章 矢倉」と題して続けられた羽生の思考が、毎号10ページ以上を費やしながら展開され、それが延々3年半にわたって続き、2000年に唐突に終了した。「第二章」は書かれることがなかった幻の未完の大作だ。羽生はあらゆる場合に発生する変化をそれぞれ深く探求し、とくに激しい変化についてはほとんど詰みに近いところまで研究して、その研究成果を全部書いてしまおうとした。そして、そのプロセスをすべて披瀝することで、これまでの将棋の常識を疑う姿勢を示すとともに、序盤に隠されていた将棋の可能性の大きさを表現しようと試みた革命的な1冊なのである。

変わりゆく現代将棋 上

変わりゆく現代将棋 上

 

 

④戦国の城 攻めと守り 小和田哲男

 詭弁のそしりを免れないが、柔術におけるガードの攻防は戦国時代の攻城戦に通ずるものがあると思っている。ならば当時の定石となる戦法はほぼそのまま使えるのではないかと思いつき、いろいろ探してようやく見つけたコンパクトな良書。思ったとおり、攻めと守り双方の代表的な戦法が網羅されている。こう考えてみてはどうだろうか。たとえばよく知られる「兵糧攻め」。これに倣ってガードが固ければ、わざと間合いを置くことで相手の動きを誘い、その挙動に合わせて再度アタックを仕掛けてみてはどうか。翻ってガード側では、わざと隙きをつくり本丸である上体に誘い込んだと同時に、無力化したと思わせた脚を使って、支城と連携した「挟撃」戦術ばりに各個撃破できないものか。といった具合に柔軟な思考を誘発するヒントが満載だと思うのは拙者だけだろうか。

知れば知るほど面白い 戦国の城 攻めと守り (じっぴコンパクト新書)

知れば知るほど面白い 戦国の城 攻めと守り (じっぴコンパクト新書)

 

 

 ⑤マジノ線物語 栗栖弘臣

 防勢的な国防戦略の粋として20世紀最大の国境要塞でありながら、ドイツ軍の侵攻を許してしまった大国フランスをとおして、どのような思想のもとにそれは誕生し、どのような運用が企図されていて、どのような意思決定がなされたかを、元防衛官僚が一次資料を丹念に読み込むことで解き明かした文献。前々から興味があったのだが、脅威を寸前にした国防とはどういうことか、本質的な「防衛」とは何なのか、どういった要因が防御を阻害するのかを突き詰めるために読んだ本。よく「素人は戦争を戦略で語りたがり、プロは兵站で語る」と云われるのだが、まさにそのとおり戦略思想の食い違いが為政者にあったことが理解できる。直接的に柔術に関わることではないが、リベラルアーツの一環として教養になり得る貴重な学術書。

マジノ線物語―フランス興亡100年

マジノ線物語―フランス興亡100年

 

 

⑥能に学ぶ「和」の呼吸法 安田登

 こちらはやや実利的な内容になるだろうか。武術の本質は呼吸のコントロールであり、時間の操作なのだということを「禅と武術の果て ~呼吸を巡る身体的考察~ - Jitz. LIFESTYLE」という記事で書いたのだが、そのとおりに試合のなかで呼吸できていない自分に気づいて読んだ本。もともと能楽は神事の舞を起源にした芸能なので、身体から湧出するリズムで謡われるものだ。ひとつひとつの人間業ではない「所作」や「運び」によって舞う人を(まるで神が降りたかのように)変容させ、場をも変容させる力を持っていた。神が降りたように舞うからには呼吸自体も変容し、まさに超人的な身体運用を可能にしていたはずだ。この本ではおもにメンタルヘルスという側面から効用が語られているが、日常生活にも活かせる実践手法が分かりやすく書かれている。

 

⑦川中島合戦 海上知明

史上もっとも有名な合戦の戦略分析のために、と云いたいところだが、この本の最大の効用は実は違うところにある。上杉謙信と武田信玄という2人の稀代の武将の違いは「キャラクター」にあるのだ。そんなことは百も承知だろうが、ではどう違うのかというと結果重視のリアリストであった武田信玄に対して、過程を大事にするアーティストだった上杉謙信。この両者のキャラクターの違いは現代にも生きている。つまり勝利の美学だ。どうやって勝つかは大事だが、如何に勝つかも大事ではないだろうか。試合に出るなら観る者を感動させたいと思うのは、競技者ならではの性だろう。では戦いのなかで何を優先し、どう行動すれば第三者の目には如何に映るのか。それを考えるうえで最良の道標となるのが本書だ。競技者であるかぎりは、美学を磨く必要がある。

川中島合戦:戦略で分析する古戦史

川中島合戦:戦略で分析する古戦史

 

張り詰めていた糸が切れた時に読む本 10冊

今週は妙に神経がざわつく。とくに理由があるわけではない。季節の変わり目なんかに不意に俺を襲うある種の違和感。突然に訪れ、いつの間にか去ってしまう妙な感覚。

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目にするすべての情報が網膜に埋め込まれたフィルタをすり抜けて、とめどなく脳内に侵入してくる感触。体内に流れる血が湧き立ち、居ても立ってもいられず、なんの根拠もない衝動に駆られる変な焦燥感。あんたにも、こんな感覚を味わう夜があるだろうか。俺の場合はなんの前触れもなく、なにかの拍子でこの感覚がやって来る。すると、それまで自分をなんとか正気に保ちピンと張っていた糸が切れる。まるでカルマのようなサイクルの中で喜怒哀楽を繰り返し、生かされていることを実感する契機であったりもする。

 

こんなときは静かに過ごすにかぎる。盲目的にベッドに潜り込み、甘美な眠りの瞬間が訪れるのをただじっと待つ。それでもなお眠れぬ夜を迎えることになってしまうと、余計なことを考えないですむように俺は本を読むことにしている。複雑な理路に迷い込んでしまうようなものは避け、できるだけ単純明快なものを。これは昔から引きずり続けている性癖みたいなものだから、最近はこの症状が出たときはどんな本がちょうどいいのか、ある程度理解できるようになってきた。

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他人にも起こりうることなのかどうかさえ俺には知る由もないが、もし同じような問題を抱えている人がいたら、きっと何かの役には立つだろう。そんなワケで、今回は「張り詰めていた糸が切れた時に読む本」と題して、参考程度に本の処方箋をお届けしよう。考えながら読むものよりは、作品世界に没頭できる小説をとくにおすすめしたい。気になる書籍は是非、ベッド脇の一角に常備あれ。

 

深夜特急 沢木耕太郎

別の何かに支配されそうになる虚無感に襲われたときは、夢想の旅へ逃避することが効果的だ。齢四十を前にして、今でも無性に旅に出たくなる。この本は多くの人が旅のバイブルとして挙げるように、俺にとっても永遠の青春文学の金字塔である。沢木耕太郎は昔から好きな作家のひとりで、自らの美学に生きるがゆえの、ある種のダンディズムが文体の中に滲み出ているのだ。『深夜特急』もまた、醒めた視線の中に宿るポエジー(詩情)が心地いい自伝小説。

深夜特急(1?6) 合本版

深夜特急(1?6) 合本版

 

  

ギケイキ 町田康

あの義経記が、「かつてハルク・ホーガンという人気レスラーが居たが私など、その名を聞くたびにハルク判官と瞬間的に頭の中で変換してしまう」という衝撃の書き出しで甦った町田節のひとつの到達点。俺はこの小説を勝手にプロレス文学と解釈している。ラリアットで場外に飛ばされたかと思えば七転八倒、ジャーマンスープレックスでリングに叩きつけられる。千年前の独白を時空に漂う源義経が自身で現代語に訳して聴かせる、縦横無尽の痛快ドタバタひとり語り。

ギケイキ: 千年の流転 (河出文庫)

ギケイキ: 千年の流転 (河出文庫)

 

 

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? フィリップ・K・ディック

なにやら神経がざわつくときは、むやみに意味や解釈など求めちゃいけない。20世紀最大の不条理SF作家フィリップ・K・ディップを、ただノイズミュージックを聴くかのように読み流すのもまた乙なものだ。怜悧な世界観を受け入れ、文章を吟味することなく寡黙な幻視者のごとく、ひたすら脳内に焼き付けていくのだ。すると悪夢のような闇夜に、一筋の光明を見出だせるようになるかもしれない。映画『ブレードランナー』原作を含む珠玉の短編集。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

 

 

ニューロマンサー ウィリアム・ギブスン

何を隠そう、高校生時分をどっぷりとSF小説に浸かっていた俺は特にサイバーパンクに強烈なシンパシーを抱いた。そんなサイバーパンクの金字塔である本作『ニューロマンサー』は、怒涛のスピードで退廃的な電脳空間を駆け抜ける爽快アクション・エンターテイメント。まさに脳内麻薬でディレイしかけた頭にちょうどいいドライブ感で、最後の瞬間まで一気に読ませる。乱雑なスラングと魅惑的なガジェットに圧倒され、読み終えると同時に訪れる恍惚を味わえ。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

 

 

未明の闘争 保坂和志

何が起こるわけでもなく、何かが始まるわけでもないのに何かがおかしい。否、むしろどっからがはじまりでどこが終わりか、これは現在なのか過去なのか。あらゆる区切りがこの小説にはない。すべてが平然と存在していて、そしてすべてが存在しない。多くの人はこれを実験小説だと云うだろう。しかし見る人が見ればジョイスや、ガルシア・マルケスに比肩するといい、いやいやドストエフスキーだとも云わしめる。まるで夜戦のような、そんな小説。

未明の闘争(上) (講談社文庫)

未明の闘争(上) (講談社文庫)

 
未明の闘争(下) (講談社文庫)

未明の闘争(下) (講談社文庫)

 

 

死してなお踊れ 栗原康

異色のアナキズム研究者・栗原康が、大きく話題となった前著・伊藤野枝伝の次に書き上げた一遍上人の評伝。一遍は多大な煩悩に逡巡し、一身に欲望と仏門に向き合い、遂には達観を得て「踊り念仏」に行き着いた、ある意味でパンクで破天荒なお坊さんなのだが、その一遍の軌跡を疾走する文体で見事に描ききっている。重くなりがちなテーマを軽快にデフォルメし、生きるとはこういうことか、こんな生き方でいいのかと勇気づけられる。

死してなお踊れ: 一遍上人伝

死してなお踊れ: 一遍上人伝

 

 

禅のこころ 竹村牧男

悩んでいたり、苦しいときこそ禅に学べ。禅語や公案、詩歌を紐解くことで禅仏教の本質に迫った学術書だが、禅の歴史や公案、思想的変遷がコンパクトによく整理されている。平易な禅語集や超訳などもいいものなのだが、道元や良寛などに原典を見出し、そのテクストを参照することなしに禅の理解を真に得ることはできない。そして不思議なことに先人たちの生の言葉に触れると、なぜか心は落ち着きを取り戻したりするものなのだ。

禅のこころ―その詩と哲学 (ちくま学芸文庫)

禅のこころ―その詩と哲学 (ちくま学芸文庫)

 

 

ロックンロールが降ってきた日 秋元美乃(編著)

ブランキーの浅井健一やブルーハーツの真島昌利、ミッシェルガンエレファントのチバユウスケなど錚々たるロック・レジェンドたちの、音楽との馴れ初めを語り明かしたインタビュー集だが、いつどんなときに衝撃的な出会いがあるかわからないということを知らしめてくれる。ピンチはチャンスだったり、突如として飛来してきたり。人生捨てたもんじゃない、ということを真摯に教えてくれる愛に溢れた言葉、言葉、言葉の数々。

ロックンロールが降ってきた日 (P-Vine Books)

ロックンロールが降ってきた日 (P-Vine Books)

  • 作者: 秋元美乃,森内淳,浅井健一
  • 出版社/メーカー: スペースシャワーネットワーク
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 単行本
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BLUE GIANT 石塚真一

秋の夜長にはやっぱりジャズでしょ、ってことで伝説的なマンガを。人はものごとに没頭するとここまで熱くなれるのかってことを、“スポ根”ならぬ“音根”モノとして素晴らしいドラマに仕立て上げた。個性的なキャラクターとともに、現実の厳しさや人生の悲哀をブルージーに描いている。ジャズは昔から人を狂わせる魔力を秘めた音楽なのだが、その魅力や熱気、空気感という不可視なものを見事にビジュアル化した傑作。

BLUE GIANT コミック 全10巻完結セット (ビッグコミックススペシャル)
 

 

疲れすぎて眠れぬ夜のために 内田樹

「街場の◯◯」シリーズでおなじみの、市井に生きる思想家・内田樹が現代社会における生き方、働き方を説いたエッセイ集。明快な論理展開と独特の着眼点がなんともおもしろい御仁だが、著作のなかでは比較的平易な文章のものがまとめられていて、モノの見方が決してひとつだけではないことを教えてくれる。ここに書かれていることに即効性はないが、ジワ~っと効いてくる漢方のような、きわめて東洋的な叡智がつまっていると思う。

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

疲れすぎて眠れぬ夜のために (角川文庫)

 

 

最後に

健全なあんたも、憂鬱なあんたも。神経がざわついて緊張の糸が切れそうなときには、ぜひ手にとって読んでみていただきたい。きっと、俺の場合と同様にあんたの血となり肉となってくれるはずだから。

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『グレイシー柔術』を理解するための本10冊+α

ブラジリアン柔術をより深く、より精緻に理解するためには、その源流であるグレイシー柔術の研究や探求を欠かすことができない。しかし意外にも、グレイシー柔術を知るための手がかりとなる文献は決して多くはないのが現実だ。

 

そこで今回は俺がグレイシー柔術について理解するために実際に読み込んだ書籍のなかで、新たな発見を見出せたもの、柔術を俯瞰するための視点をあたえてくれた10冊を選んでみた。

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残念ながらリストのなかには今は絶版になってしまったものも含まれているが、古書として安価に手に入れることのできるものも少なくない。いずれ新たなグレイシー柔術の解説書、研究書も刊行されるだろうが、過去の重要なリファレンスとしてここに紹介させていただいた次第だ。参考にされたし。

 

知識は力なり

"knowledge is power"

ーSir Francis Bacon

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①グレイシー柔術の真実

作家・夢枕獏によるブラジル格闘技の見聞録や、日本と世界の柔術事情の解説などマニア垂涎ものの企画が詰め込まれていて、90年代に彗星の如く現れたグレイシー柔術の、業界の受け止め方や当時の雰囲気がよく理解できる。目玉はシューティング(現:修斗)草創期の天才・佐山聡が、グレイシー柔術の本質を徹底的に分析した見解が述べられているインタビューが瞠目。入門書として最適な1冊といえる。

グレイシー柔術の真実―ブラジルに伝承される最強の格闘技を徹底解剖する

グレイシー柔術の真実―ブラジルに伝承される最強の格闘技を徹底解剖する

  • 作者: show,布施鋼治,若林太郎,須山浩継,矢崎良一
  • 出版社/メーカー: フットワーク出版社
  • 発売日: 1994/12
  • メディア: 単行本
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②武道と他流試合

理論派の武術家として知られた故・堀辺正史が、K-1隆興の祖・谷川貞治との対談で前著『グレイシー柔術の秘密』をアップデートしたのが本書。グレイシー柔術の本質を「他流試合」というキーワードからフォーカスして、日本の武術が根本的に抱える病理と進むべき方向性を示した。柔術の術理の本質とその文学的なコンテクストを解読し、グレイシーの出現と同時にその可能性を見抜いていた恐るべき慧眼。いまだ、ここまでグレイシー柔術の謎を解き明かした本書を超える解説書は上梓されていない。

武道と他流試合―日本人よ、グレイシーに学べ! (格闘技通信Selectionシリーズ)

武道と他流試合―日本人よ、グレイシーに学べ! (格闘技通信Selectionシリーズ)

 

 

③グレイシー一族の真実

グレイシー柔術に魅せられた著者が丹念に一族へ取材を行い、インタビューをもとにして柔術の誕生から主要人物の人生まで、グレイシーの歴史をたどった意欲的なドキュメンタリー。国内のマスコミが高田延彦や船木誠勝などプロレス側に好意的な反面、グレイシー一族を直視した著作は少ない。あまり知られていない一族の苦難と栄光を知ることができる。

グレイシー一族の真実―すべては敬愛するエリオのために (文春文庫PLUS)

グレイシー一族の真実―すべては敬愛するエリオのために (文春文庫PLUS)

 

 

④U.W.F外伝

『グラップラー刃牙』のモデルであり日本の総合格闘技の草分け、平直行からみたUWF史。UFCの第2回大会を観たことでバーリトゥードを志向し、かつての正道会館・石井館長の尽力によりカーロスSr.の実子、カーリー・グレイシーに師事した顛末も描かれている。日本で初めてグレイシー柔術を学んだパイオニアとして、彼の視点と体験談はまさに白眉。日本でもっともグレイシーの本質を理解している人だと思う。

U.W.F外伝

U.W.F外伝

 

 

⑤不敗の格闘王 前田光世伝

グレイシー柔術を知るうえでも、そのルーツを辿ることは重要なことだ。開祖カーロス・グレイシーSr.に柔(やわら)の技法を伝授したのは、コンデ・コマと名乗った講道館のはみ出し者・前田光世だった。その前田の後半生はとくに謎が多く解明されていないことが多いのだが、彼の歩んだ道のりを追体験することなしにグレイシー柔術の思想性と理念は理解できない。本書は、一次資料をもとにした最良の研究書の1冊といえるだろう。

不敗の格闘王 前田光世伝 グレイシー一族に柔術を教えた男 (祥伝社黄金文庫)

不敗の格闘王 前田光世伝 グレイシー一族に柔術を教えた男 (祥伝社黄金文庫)

 

 

⑥木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

グレイシー柔術の誕生に貢献したのが1人の日本人(前田光世)であったなら、グレイシー柔術の変革に寄与したのも1人の日本人だった。それまでのフィジカルを要する柔術から、力に頼ることなくテクニックで相手を凌駕する柔術へと発展させたエリオ。そのエリオの柔術をより高次なものへと昇華させたのは、彼に唯一の敗北をプレゼントした木村という柔道家だった。木村政彦がどのような男だったかを知ることで、グレイシー柔術の違った側面が見えてくる。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

 

  

⑦ヒクソン・グレイシー 無敗の法則

グレイシー一族最強のファイターとして400戦無敗を誇った柔術レジェンド。晩年のエリオは独自のスタイルを模索していたヒクソンを認めようとしなかったが、ヒクソンの自伝でもある本書を読むと、彼もまたグレイシー柔術の今日的意味合いに逡巡し、エリオの哲学を正統に受け継いでいたことがわかる。ヒクソンのグレイシー柔術への理解と愛に溢れた内容になっていて、柔術フリークなら必読。

ヒクソン・グレイシー 無敗の法則

ヒクソン・グレイシー 無敗の法則

 

 

⑧ブラジリアン バーリトゥード

グレイシー柔術と切っても切れない関係にあるのがバーリトゥード(異種格闘技戦)。そのバーリトゥードの実情を、自身でも柔術をたしなむ写真家・井賀孝がブラジルへと渡り、写真と文章で綴った渾身のルポルタージュ。続編の『バーリトゥード 格闘大国ブラジル写真紀行』も刊行しているが、2000年初頭の混沌としたブラジル格闘界のリアルをビジュアルでとらえた本書はとくに貴重だ。

ブラジリアン バーリトゥード

ブラジリアン バーリトゥード

 

 

⑨ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017

数ある日本の格闘技雑誌の中でも歴史があり、いち早く日本にグレイシー柔術を紹介した媒体であった『ゴン格』。現在のMMAに連なる系譜の中で重要な伏線となった複数の記事を再編集したのが本書。最初の1章がまるまる柔術にページが割かれており、木村政彦対エリオの真相、生前のエリオの胸中やヒクソンが語る息子クロンへの思いなど、グレイシー柔術を現在(いま)の文脈から理解できる良質なインタビュー記事が目白押しである。

ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017

ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017

 

 

⑩ブラジリアン柔術 セルフディフェンステクニック

アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(現:UFC)によって脚光を浴びたホイス・グレイシーによる、グレイシー柔術の本質でもあるセルフ・ディフェンス(護身術)のテクニックを細かに解説した本邦初の技術書。グレイシー柔術とは何なのか、そのメカニズムを術理から解き明かすにも必見の内容になっている。

ブラジリアン柔術 セルフディフェンステクニック

ブラジリアン柔術 セルフディフェンステクニック

  • 作者: ホイスグレイシー,シャールズグレイシー,中井祐樹,黒川由美
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 2003/08
  • メディア: 単行本
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【番外編】

The Gracie Way

ここからは番外編として英語で書かれた洋書を紹介する。グレイシー柔術がブラジル発祥のものである以上、日本語で書かれた文献を読み込んだだけでは限界がある。とくに一族の歴史を追っていくと、日本では知りえない謎と実情が存在するのだ。この『The Grcie Way』は自身が門下生でもあるKid Peligroが一族に丹念な取材を行い、知られざる歴史に光を当てた名著である。

The Gracie Way: An Illustrated History of the World's Greatest Martial Arts Family (Brazilian Jiu-Jitsu Series)

The Gracie Way: An Illustrated History of the World's Greatest Martial Arts Family (Brazilian Jiu-Jitsu Series)

 

 

Gracie Jiu-jitsu Master Text

生前のエリオ・グレイシーが自身の柔術知識のすべてを詰め込んだと語った、自身の柔術大系の集大成といえるテキスト。275ページ中で1200を超える図版によって術理が解説された、まさに力作である。しかもグラウンドテクニックのみならず、スタンドアップでのセルフディフェンスにまで懇切丁寧に言及された、グレイシー柔術の聖典と呼ぶに相応しい圧巻の内容。

 

The Gracies and the Birth of Vale Tudo

最後はドキュメンタリー映画だ。残念ながらこちらも日本に配給されなかったため未邦訳なのだが、グレイシー柔術の誕生から現在にいたるまでを時系列の映像でうまくまとめられている。一族の稽古風景やバーリトゥードの試合映像など、史料的価値の高いものも数多く含まれていて、観ているだけでも十分楽しめる内容になっている。理解の一助になってくれること間違いなし。